ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
55 / 203
第二章 動き出す狂気【現在 七色七奈】

11

しおりを挟む
「申し訳ないけど、その辺りのことは詳しく知らないなぁ。俺がここに来る前の話らしいし、なんとなく近所の人から聞いた話だから。でも、話してくれる人はみんな真剣な顔してるんだよ。神隠し――なんていう非現実的な話を口にしてんのに」

 私にとって現状の情報源は大和田しかいない。彼が分からないことに関しては、私も分からないし、彼の知っている情報が、私の知り得る情報の限界値である。

 ここに住んでいる人間は神隠しに遭って姿を消した。もし、その中に赤松朱里も含まれているのだとしたら――私にテープを送りつけてきたのは誰なのか。もしかすると、赤松朱里はすでにこの世には存在していないのかもしれない。

 テープを探し出す度に、少しずつ全ての謎が明らかになっていく――これが理想の展開。しかしながら実際の展開はまるで逆だ。テープを探し出す度に、分からないことが増えていく。しかも、ほとんどの謎が解明されないまま謎ばかりが増えていく。

「赤松朱里のことについて、何か分かるかもしれないと思ったのに――」

 ぽつりと本音が出てしまった。自分一人で勝手に盛り上がり、自分一人で勝手に振り出しへと戻ってしまった。やはり、私にできることは、ビデオテープを追いかけることだけなのだろうか。

「とりあえず、一旦戻ろう。ビデオテープの中身を確認しておいたほうが良さそうだし」

 私達の手元にある手がかりは、ビデオテープしかない。その時点で、なんだか踊らされているような気がしてならないのだが、そこを頼るしかないのが現状でもある。

 ――こんなことならば、ビデオテープなんて無視してしまえば良かった。気味の悪いものが届いたと諦めて、そのまま放り投げてしまったほうが、まだ気が楽だったのかもしれない。少なくとも、ビデオテープを探し出す度に謎が増えるという、妙な徒労感におそわれることはなかっただろう。

 大和田が先に車へと戻り、そして私も車へと戻る。運転席に乗り込もうとした瞬間、私はゾッとした。

 玄関が少しだけ開いている。しかも、その隙間から白い手が出ていて、私達に向かって手招きをしているのだ。

「大和田さん。あれ――」

 気づいていない様子の大和田に知らせるべく、私は白い手を指差す。そのタイミングを見計らっていたかのごとく、その手は玄関の中へと引っ込み、そして、わずかばかりの隙間は、音を立てて消えてしまった。大和田がそちらを見た時には、すでに何の変哲もない廃屋の玄関と化していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ダブルの謎

KT
ミステリー
舞台は、港町横浜。ある1人の男が水死した状態で見つかった。しかし、その水死したはずの男を捜査1課刑事の正行は、目撃してしまう。ついに事件は誰も予想がつかない状況に発展していく。真犯人は一体誰で、何のために、、 読み出したら止まらない、迫力満点短編ミステリー

舞姫【中編】

友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。 三人の運命を変えた過去の事故と事件。 そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。 剣崎星児 29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。 兵藤保 28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。 津田みちる 20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。 桑名麗子 保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。 亀岡 みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。 津田(郡司)武 星児と保が追う謎多き男。 切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。 大人になった少女の背中には、羽根が生える。 与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。 彼らの行く手に待つものは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...