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第二章 動き出す狂気【現在 七色七奈】
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「申し訳ないけど、その辺りのことは詳しく知らないなぁ。俺がここに来る前の話らしいし、なんとなく近所の人から聞いた話だから。でも、話してくれる人はみんな真剣な顔してるんだよ。神隠し――なんていう非現実的な話を口にしてんのに」
私にとって現状の情報源は大和田しかいない。彼が分からないことに関しては、私も分からないし、彼の知っている情報が、私の知り得る情報の限界値である。
ここに住んでいる人間は神隠しに遭って姿を消した。もし、その中に赤松朱里も含まれているのだとしたら――私にテープを送りつけてきたのは誰なのか。もしかすると、赤松朱里はすでにこの世には存在していないのかもしれない。
テープを探し出す度に、少しずつ全ての謎が明らかになっていく――これが理想の展開。しかしながら実際の展開はまるで逆だ。テープを探し出す度に、分からないことが増えていく。しかも、ほとんどの謎が解明されないまま謎ばかりが増えていく。
「赤松朱里のことについて、何か分かるかもしれないと思ったのに――」
ぽつりと本音が出てしまった。自分一人で勝手に盛り上がり、自分一人で勝手に振り出しへと戻ってしまった。やはり、私にできることは、ビデオテープを追いかけることだけなのだろうか。
「とりあえず、一旦戻ろう。ビデオテープの中身を確認しておいたほうが良さそうだし」
私達の手元にある手がかりは、ビデオテープしかない。その時点で、なんだか踊らされているような気がしてならないのだが、そこを頼るしかないのが現状でもある。
――こんなことならば、ビデオテープなんて無視してしまえば良かった。気味の悪いものが届いたと諦めて、そのまま放り投げてしまったほうが、まだ気が楽だったのかもしれない。少なくとも、ビデオテープを探し出す度に謎が増えるという、妙な徒労感におそわれることはなかっただろう。
大和田が先に車へと戻り、そして私も車へと戻る。運転席に乗り込もうとした瞬間、私はゾッとした。
玄関が少しだけ開いている。しかも、その隙間から白い手が出ていて、私達に向かって手招きをしているのだ。
「大和田さん。あれ――」
気づいていない様子の大和田に知らせるべく、私は白い手を指差す。そのタイミングを見計らっていたかのごとく、その手は玄関の中へと引っ込み、そして、わずかばかりの隙間は、音を立てて消えてしまった。大和田がそちらを見た時には、すでに何の変哲もない廃屋の玄関と化していた。
私にとって現状の情報源は大和田しかいない。彼が分からないことに関しては、私も分からないし、彼の知っている情報が、私の知り得る情報の限界値である。
ここに住んでいる人間は神隠しに遭って姿を消した。もし、その中に赤松朱里も含まれているのだとしたら――私にテープを送りつけてきたのは誰なのか。もしかすると、赤松朱里はすでにこの世には存在していないのかもしれない。
テープを探し出す度に、少しずつ全ての謎が明らかになっていく――これが理想の展開。しかしながら実際の展開はまるで逆だ。テープを探し出す度に、分からないことが増えていく。しかも、ほとんどの謎が解明されないまま謎ばかりが増えていく。
「赤松朱里のことについて、何か分かるかもしれないと思ったのに――」
ぽつりと本音が出てしまった。自分一人で勝手に盛り上がり、自分一人で勝手に振り出しへと戻ってしまった。やはり、私にできることは、ビデオテープを追いかけることだけなのだろうか。
「とりあえず、一旦戻ろう。ビデオテープの中身を確認しておいたほうが良さそうだし」
私達の手元にある手がかりは、ビデオテープしかない。その時点で、なんだか踊らされているような気がしてならないのだが、そこを頼るしかないのが現状でもある。
――こんなことならば、ビデオテープなんて無視してしまえば良かった。気味の悪いものが届いたと諦めて、そのまま放り投げてしまったほうが、まだ気が楽だったのかもしれない。少なくとも、ビデオテープを探し出す度に謎が増えるという、妙な徒労感におそわれることはなかっただろう。
大和田が先に車へと戻り、そして私も車へと戻る。運転席に乗り込もうとした瞬間、私はゾッとした。
玄関が少しだけ開いている。しかも、その隙間から白い手が出ていて、私達に向かって手招きをしているのだ。
「大和田さん。あれ――」
気づいていない様子の大和田に知らせるべく、私は白い手を指差す。そのタイミングを見計らっていたかのごとく、その手は玄関の中へと引っ込み、そして、わずかばかりの隙間は、音を立てて消えてしまった。大和田がそちらを見た時には、すでに何の変哲もない廃屋の玄関と化していた。
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