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第二章 動き出す狂気【過去 宝田羽衣】
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正直、もっと広大な森が広がっているものだと思っていた。しかしながら、木々が生い茂っているせいで、延々とトンネルをくぐっているような感覚が続く。これはこれで谷と密着する理由になるから大歓迎であるが、子供の頃から恐れてきた森にしては、なんというか規模が小さいような気がした。
基本的に一本道というのもよろしくないだろう。確か、噂では廃墟となった山小屋らしき建物があるらしく、それの発見をひとつの目的としてかかげていたわけだが、この調子だと簡単に見つけてしまいそうだ。
「うわっ――!」
ほんの半歩ほど前を歩いていた谷が声を上げ、両手をぶんぶんと振り回す。懐中電灯の明かりが闇夜に舞った。
「どうしたの?」
突然どうしたのだろうか。羽衣が問うと、これまた羽衣を幻滅させてくれるような一言を放つ谷。
「あ、いや――クモの巣が顔に」
思わず「それくらいのことで――」と喉から出そうになったが、辛うじて堪えた。しかし、言葉となって放たれることを許されなかったそれは、大きな溜め息となって羽衣の口から漏れ出してしまった。
「な、なんか頼りなくてごめん……」
誰がどう聞いたって、さっきの溜め息にはマイナスの意味が込められていた。それを察した谷が、申しわけなさそうに謝ってきた。慌てて弁解する羽衣。
「あ、違うの。さっきのは安心した時の溜め息。谷君に何が起きたのか心配だったけど、クモの巣で良かった――ってやつ」
安堵の溜め息――と言いたかったのだが、うまく言葉に出来なかった。それはきっと、もはや言葉の半分以上が偽りだからなのかもしれない。
ふと、その時のことである。これから羽衣達が進もうとしていた方角から、がさりという音がした。それは風が鳴らしたようなものではなかった。明らかに何かしらの力が加わって発せられた音だった。
これには羽衣も警戒する。谷はこれまで以上に情けない姿を晒してくれるのだろう――と思っていたのであるが、先ほどの溜め息が随分と効果的だったようだ。
なんだかんだで羽衣にいいところを見せたいのだろう。懐中電灯を羽衣に手渡してくると「ちょっと見てくる」と谷。この先、何がいるのかさえ定かではないのに、懐中電灯の明かりもなしに進むのは危険極まりない。それは勇気とか度胸ではなく、単なる無謀な行動だ。
「いや、さすがに危ないんじゃない?」
懐中電灯を受け取りつつ言うと、谷はポケットから何かを取り出す。それは、懐中電灯に比べたら明らかに光量の少ないペンライトだった。
「明かりなら俺も持ってるんだ」
基本的に一本道というのもよろしくないだろう。確か、噂では廃墟となった山小屋らしき建物があるらしく、それの発見をひとつの目的としてかかげていたわけだが、この調子だと簡単に見つけてしまいそうだ。
「うわっ――!」
ほんの半歩ほど前を歩いていた谷が声を上げ、両手をぶんぶんと振り回す。懐中電灯の明かりが闇夜に舞った。
「どうしたの?」
突然どうしたのだろうか。羽衣が問うと、これまた羽衣を幻滅させてくれるような一言を放つ谷。
「あ、いや――クモの巣が顔に」
思わず「それくらいのことで――」と喉から出そうになったが、辛うじて堪えた。しかし、言葉となって放たれることを許されなかったそれは、大きな溜め息となって羽衣の口から漏れ出してしまった。
「な、なんか頼りなくてごめん……」
誰がどう聞いたって、さっきの溜め息にはマイナスの意味が込められていた。それを察した谷が、申しわけなさそうに謝ってきた。慌てて弁解する羽衣。
「あ、違うの。さっきのは安心した時の溜め息。谷君に何が起きたのか心配だったけど、クモの巣で良かった――ってやつ」
安堵の溜め息――と言いたかったのだが、うまく言葉に出来なかった。それはきっと、もはや言葉の半分以上が偽りだからなのかもしれない。
ふと、その時のことである。これから羽衣達が進もうとしていた方角から、がさりという音がした。それは風が鳴らしたようなものではなかった。明らかに何かしらの力が加わって発せられた音だった。
これには羽衣も警戒する。谷はこれまで以上に情けない姿を晒してくれるのだろう――と思っていたのであるが、先ほどの溜め息が随分と効果的だったようだ。
なんだかんだで羽衣にいいところを見せたいのだろう。懐中電灯を羽衣に手渡してくると「ちょっと見てくる」と谷。この先、何がいるのかさえ定かではないのに、懐中電灯の明かりもなしに進むのは危険極まりない。それは勇気とか度胸ではなく、単なる無謀な行動だ。
「いや、さすがに危ないんじゃない?」
懐中電灯を受け取りつつ言うと、谷はポケットから何かを取り出す。それは、懐中電灯に比べたら明らかに光量の少ないペンライトだった。
「明かりなら俺も持ってるんだ」
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