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第二章 動き出す狂気【過去 赤松朱里】
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じんじんと傷口はしみるし、思っていたよりも痛みは広範囲に及んでいる。こうなってしまっては、家に帰ってしまったほうがいいのかもしれないが、せっかく入念に準備してきたのだ。今さら引き返すなんてもったいない。
朱里は片腕ずつ包帯を巻いていく。傷口が直接外の空気に触れないおかげか、痛みが和らぐように感じるから不思議だ。片方の腕の処置を終えると、もう片方の腕にも包帯を巻いてしまう。辛うじて包帯は足りたが、万が一にもミノタウロスの森で怪我人が出てしまったら、対処できなくなってしまった。
「あはは――ミイラみたい」
自分の両腕を見て自虐的な笑みを浮かべる。そうしている間もビデオのテープは回り続けていた。地べたに置いたままだったハンディビデオカメラを手に取ると、改めて自転車のほうにカメラを向けた。
「大体、何を踏んだんだろ」
そもそも、自転車で宙へとダイビングしたのは、何かを前輪が踏んでしまったからだ。ぐにゃりとしたような感覚だった気もするし、落とし穴にはまったような気もしなくはない。ゆっくりと自転車に歩み寄り、月明かりを頼りに地面をビデオカメラで映してみるが、しかし辺りは何の変哲もない砂利道だった。ビデオに付いている、小さな照明は、朱里が転ぶことになった要因までは照らしてくれなかった。
首を傾げながらも自転車を起こす。もしかすると、これ以上は自転車で近づいてはいけないのかも。だから、先に行ったみんなも、あんなところに自転車を置いて行ったのかもしれない。様々ないわくのあるミノタウロスの森であるから、何が起きても不思議ではない。
朱里は自転車を停めると、ビデオカメラを自分に向けてみる。ビデオカメラの照明で、怪我の具合を見ておきたかったのだ。モニターを自分のほうへと向けると、カメラ越しの自分が、まるで鏡を見ているかのごとくモニターに映し出された。
「とりあえず、怪我をしたのは腕だけみたい――良かった」
良くはないのであるが、顔に怪我でもしていたら、さすがにそのまま放っておくわけにもいかなくなるだろう。それはすなわち、帰宅しなければならないことを意味する。
ビデオカメラを回しながら、ミノタウロスの森の入り口となる鳥居を目指す。
ミノタウロスの森は忌避されるべき場所。この夜もまた、例外なく――後に忌避されるべき出来事が起きてしまうわけであるが、この時の朱里はまだ軽く考えていたのであった。
――惨劇の夜が幕を開ける。
朱里は片腕ずつ包帯を巻いていく。傷口が直接外の空気に触れないおかげか、痛みが和らぐように感じるから不思議だ。片方の腕の処置を終えると、もう片方の腕にも包帯を巻いてしまう。辛うじて包帯は足りたが、万が一にもミノタウロスの森で怪我人が出てしまったら、対処できなくなってしまった。
「あはは――ミイラみたい」
自分の両腕を見て自虐的な笑みを浮かべる。そうしている間もビデオのテープは回り続けていた。地べたに置いたままだったハンディビデオカメラを手に取ると、改めて自転車のほうにカメラを向けた。
「大体、何を踏んだんだろ」
そもそも、自転車で宙へとダイビングしたのは、何かを前輪が踏んでしまったからだ。ぐにゃりとしたような感覚だった気もするし、落とし穴にはまったような気もしなくはない。ゆっくりと自転車に歩み寄り、月明かりを頼りに地面をビデオカメラで映してみるが、しかし辺りは何の変哲もない砂利道だった。ビデオに付いている、小さな照明は、朱里が転ぶことになった要因までは照らしてくれなかった。
首を傾げながらも自転車を起こす。もしかすると、これ以上は自転車で近づいてはいけないのかも。だから、先に行ったみんなも、あんなところに自転車を置いて行ったのかもしれない。様々ないわくのあるミノタウロスの森であるから、何が起きても不思議ではない。
朱里は自転車を停めると、ビデオカメラを自分に向けてみる。ビデオカメラの照明で、怪我の具合を見ておきたかったのだ。モニターを自分のほうへと向けると、カメラ越しの自分が、まるで鏡を見ているかのごとくモニターに映し出された。
「とりあえず、怪我をしたのは腕だけみたい――良かった」
良くはないのであるが、顔に怪我でもしていたら、さすがにそのまま放っておくわけにもいかなくなるだろう。それはすなわち、帰宅しなければならないことを意味する。
ビデオカメラを回しながら、ミノタウロスの森の入り口となる鳥居を目指す。
ミノタウロスの森は忌避されるべき場所。この夜もまた、例外なく――後に忌避されるべき出来事が起きてしまうわけであるが、この時の朱里はまだ軽く考えていたのであった。
――惨劇の夜が幕を開ける。
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