ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

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 ミノタウロスの森は、ある意味で子供達のトラウマだ。絶対に入ってはいけないと大人達から口酸っぱく言われ、そして私は一度も足を踏み入れることなく、この土地を離れてしまった。もし、もう少し大人になるまで、この土地にいたら、私はミノタウロスの森に足を踏み入れてしまったのだろうか。好奇心が溢れ、なんでもできるように勘違いしてしまう年頃に。それこそ、赤松朱里のように。

「確かに、肝試しするにはもってこいの場所かもしれねぇ。でも、俺がここに赴任してから、まだ一度も、それ関係で通報があったことはないから不思議なんだよなぁ」

 いい加減、独特な喋り方に慣れてきた。小さい頃は、この独特なイントネーションが苦手だったが、今になって聞いてみると、なかなかに味があって可愛らしい。田舎特有の、のんびりした空気が漂ってくるようだ。

「それって、通報がないだけじゃ? この辺りでミノタウロスの森といえば、かなり有名なはずだし、入り口にあんな不気味な鳥居がある場所なんて、間違いなく心霊スポットにでもなりそうですけど」

 赤松朱里のように、歳を取れば怖いもの見たさでミノタウロスの森に入りたがる輩は必ずいる。この辺りにとどまらず、色々なところから押し寄せて来そうなものだが。

「いいや、この辺りの人達だからこそ、ミノタウロスの森の近くで人が騒いでいたら、必ず俺のところに通報がある。他の土地から来るってことは車だろうし、夜になれば嫌でもヘッドライトが目立つからな。俺もミノタウロスの森の話を聞いた時、どうせ夏場はそれ関係の通報で忙しくなるだろうと思ってたんだけど、とんだ拍子抜けだったのを覚えてる」

 ――ミノタウロスの森に遊び半分で近づく者はいない。そうとでも言いたいのであろうか。まさに、心霊スポット巡りが好きな人間が飛びつきそうな場所なのに。

 ビデオの準備ができた。後は再生ボタンを押せばテープが再生されることであろう。おそらく、ミノタウロスの森に足を踏み入れることになるであろう内容のビデオテープは、ある意味で貴重なのかもしれない。誰も近寄らない場所を撮影したものになっているのだろうから。

「えっと、それじゃ再生しますね」

 私はそう言いながら再生ボタンを押す。音を立ててテープが回り出し、画面に映像が流れ始める。

 この時点で大和田は巻き込まれてしまっていだのだと思う。いや、私が巻き込んでしまったのだと思う。

 あのミノタウロスの森の呪いに。
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