ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

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 テレビの裏側と睨めっこしながら、色のついた端子を挿し込む。その間に大和田はビデオデッキの電源を確保してくれ、珍しそうに専用アダプタを眺めていた。

「なるほど、このままだとビデオテープが小せぇから、その機械じゃ再生できねぇのか」

 専用アダプタの存在意義を見抜いた辺り、中々に鋭いのかもしれない。年齢まで聞くつもりはないが、ビデオデッキのことなどを知らないということは、私よりやや下になるのであろう。もっとも、私ですらビデオデッキなんてギリギリの世代であるが。

「そういうこと。専用アダプタに8ミリテープを嵌め込んで、それをデッキで再生するんです」

 私は大和田から専用アダプタを受け取ると、1本目の8ミリビデオテープを取り外し、代わりに2本目のテープを取り付ける。この手間を考えると、現代というものはかなり便利になったのだろう。今やスマートフォンひとつあれば映像を記録することができるし、いつでもどこでも映像を観ることができるのだから。

「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、大和田さんって、この辺りの出身なんですか?」

 準備をしながら大和田に問うてみる。彼が妙にビデオテープに興味を示してくれたせいか、少しばかり仲間意識のようなものが芽生えていたのかもしれない。ついさっきまでは、損得勘定で物事を考えていたというのに現金なものである。

「いやぁ、全然。この喋り方だから、ここの出身だと思われるんだけど、これは駐在所で爺ちゃんや婆ちゃんの相手ばっかりしてたら、自然とうつってしまったもんなんだ。普通に喋っても、この辺りの爺ちゃんや婆ちゃんには話が通じなかったりするし、いざ慣れてみると使いやすくて」

 方言というものは、その土地に生まれた者が喋るものである――という認識が強いが、その土地に馴染むために、自然と適応しなければならない場合もあるのだろう。大和田は典型的な後者だと思われる。

「それじゃあ、ミノタウロスの森のことはどれくらい知ってますか?」

 さっき、大和田はミノタウロスの森という言葉を口にしていた。この土地の出身者ではなくとも、多少なりともミノタウロスの森のことは知っているのだろう。

「いや、それはこっちに来たばっかりの頃、みんなから口を酸っぱくして言われたから。あそこに行ったら悪いことが起きる。下手したら生きて帰って来れねぇかもしれない。だから、大人でも近づいちゃならねぇ。実際、入り口のところまで見に行ったことがあるけど、確かにあれは不気味でなぁ。鳥居の色がまずあり得ねぇ色してるし」
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