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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】
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「あぁ、そうだよ。駐在所から少し山のほうに行ったところに――」
「ありがとうございました。お幾らになりますか?」
おばさんの言葉を遮るかのようにして頭を下げると、支払いだけさっさと済ませて店を後にした。あの手のタイプは、きっとどんな話に切り替えたって長引くはず。少し冷たいのかもしれないが、多少なりとも強引にいかなければ、初っ端からロスタイムをくらっていたことだろう。
車に戻ると簡単に食事を済ませる。車を運転しながらでも食事はできないわけではなかったが、ほとんど記憶にない土地での運転は、何が起きるか分からないし、普段の運転以上に意識を張り巡らせておく必要がある。とてもではないが、食事片手にできるものではないだろう。
食事を終えて車を降りると、出たゴミをコンビニのゴミ箱へと捨てる。朝日が高々とのぼりはじめ、ようやく辺りには朝の慌ただしさのようなものが漂い始めた。感覚的なものだし、気のせいなのかもしれないが、私の記憶の中にある集落の方向が、妙に騒がしいような気がした。なんだか、小学生の朝を思い出す。
朝の空気を大きく吸い込み、そして吐き出す。田舎の空気は美味いなんて言うが、私には残念ながら味が分からない。それでも、広大な田畑をバックにして深呼吸をするのは気持ちが良かった。
気持ちを切り替えて車に戻ると、昔の記憶を掘り返しながら学校を目指して車を走らせる。小さい頃の記憶とはいえ、さすがはずっと住んでいた街。見覚えのある景色が増えてきて、過去の記憶と合致していく。見慣れないコンビニなんてものがあったから、少し不安になってしまったが、むしろ変わってしまったのは新しいコンビニができてしまったことくらいなのかもしれない。思った以上に、時の流れというものを恐れすぎていたのか。
昔の記憶と答え合わせをしながら、とりあえず迷うことなく駐在所を見つける。そこから山肌の方に向かってハンドルを切った。あの山肌のどこかに――ミノタウロスの森があるはずだ。
しばらく走ると、小学校の学舎が見えてきた。自分の記憶力の良さに感心すると同時に、なんだか拍子抜けしてしまった。ビデオテープに映された学校の全景は、なんとなくおどろおどろしく見えたというのに、実際に目にしてみると、外観はなんの変哲もない小学校だ。前庭に多少の雑草が生えてはいるものの、校舎も綺麗であるし、廃校という印象自体が薄い。
「ありがとうございました。お幾らになりますか?」
おばさんの言葉を遮るかのようにして頭を下げると、支払いだけさっさと済ませて店を後にした。あの手のタイプは、きっとどんな話に切り替えたって長引くはず。少し冷たいのかもしれないが、多少なりとも強引にいかなければ、初っ端からロスタイムをくらっていたことだろう。
車に戻ると簡単に食事を済ませる。車を運転しながらでも食事はできないわけではなかったが、ほとんど記憶にない土地での運転は、何が起きるか分からないし、普段の運転以上に意識を張り巡らせておく必要がある。とてもではないが、食事片手にできるものではないだろう。
食事を終えて車を降りると、出たゴミをコンビニのゴミ箱へと捨てる。朝日が高々とのぼりはじめ、ようやく辺りには朝の慌ただしさのようなものが漂い始めた。感覚的なものだし、気のせいなのかもしれないが、私の記憶の中にある集落の方向が、妙に騒がしいような気がした。なんだか、小学生の朝を思い出す。
朝の空気を大きく吸い込み、そして吐き出す。田舎の空気は美味いなんて言うが、私には残念ながら味が分からない。それでも、広大な田畑をバックにして深呼吸をするのは気持ちが良かった。
気持ちを切り替えて車に戻ると、昔の記憶を掘り返しながら学校を目指して車を走らせる。小さい頃の記憶とはいえ、さすがはずっと住んでいた街。見覚えのある景色が増えてきて、過去の記憶と合致していく。見慣れないコンビニなんてものがあったから、少し不安になってしまったが、むしろ変わってしまったのは新しいコンビニができてしまったことくらいなのかもしれない。思った以上に、時の流れというものを恐れすぎていたのか。
昔の記憶と答え合わせをしながら、とりあえず迷うことなく駐在所を見つける。そこから山肌の方に向かってハンドルを切った。あの山肌のどこかに――ミノタウロスの森があるはずだ。
しばらく走ると、小学校の学舎が見えてきた。自分の記憶力の良さに感心すると同時に、なんだか拍子抜けしてしまった。ビデオテープに映された学校の全景は、なんとなくおどろおどろしく見えたというのに、実際に目にしてみると、外観はなんの変哲もない小学校だ。前庭に多少の雑草が生えてはいるものの、校舎も綺麗であるし、廃校という印象自体が薄い。
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