ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
21 / 203
第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

8

しおりを挟む
「あの、ちょっとお聞きしたいんですが」

 このまま聞かれるがままにしていては、なんだか根掘り葉掘り聞かれてしまうような気がする。かつてここに住んでいたはずの人間が、ふらりと立ち寄った。しかも、これまで一度も街に顔を出さなかった人間が――なんてことは、この田舎ではすでにスクープだ。井戸端会議のネタにと、色々と聞かれる前に私は先制することにした。もっとも、かなり遅れを取った先制ではあるが。

「なんだろうかね?」

 余所者に対しての当たりはきついが、しかし元より身内だった人間となれば、話はまた変わってくるのであろう。相変わらず馴れ馴れしいながらも、どこか漂っていた、よそよそしさのようなものは消え去っていた。レジ袋が必要か否かを聞いてくる前に、問答無用でレジ袋に商品を詰めてしまうあたりは、田舎特有のローカルルールのようなものなのかもしれない。

「あの、この街に小学校ってありましたよね? 私も小さい頃に通っていた学校なんですけど」

 ここまでに来る道中で、なんとなく見覚えのある風景を見たような気もすれば、まるで記憶にない風景も見てきた私。かつて住んでいた街とはいえ、私の中にある街の記憶は小学生から途絶えており、だから無事に学校までたどり着けるのか、いささか不安になった。

「あぁ、随分と前に廃校になったけどね。今じゃ誰も寄り付かないよ。ここら辺の子は、朝も早くからスクールバスで、中心部のほうの学校に行ってるよ。少子高齢化なんて言うけどね、本当にこの辺じゃ高齢化が深刻な問題になっていて――ほら、ここ出身の人間も、外で所帯を持ってしまうと帰ってなんてこないだろ? だから、空き家も目立つようになっちゃってさ。そうそう……それに」

 喋り出したら止まらない。まるで、私が久しぶりのお客であるとでも言わんばかりに、話はこの辺りの情勢から、お隣さんの娘さんがとうとう結婚して家を出てしまい、高齢化に拍車がかかっているなんて、私からしたらどうでもいい話にいたるまで、頼みもしていないのに延々と続く。私は手を差し出して、おばさんが持ったままだったレジ袋の取っ手に指を通し、おばさんの言葉を遮る。

「学校って、たしか駐在所の近くにありましたよね?」

 本当はもう少し詳しい情報が欲しかったのであるが、それを聞くにはとんでもない長さの世間話がセットになるような気がした私は、昔の記憶を掘り起こして、目印になるようなものがないかを探す。記憶が正しければ、小学校の近くに駐在所があったはず。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

ミス研喫茶の秘密(雨音 れいす) ― 5分間ミステリバックナンバーVol.1 ―

筑波大学ミステリー研究会
ミステリー
【バックナンバーは、どの作品からでも問題なく読めます】 とある大学の学園祭を訪れた「私」は、ミステリー研究会が出店する喫茶店を訪れる。 穏やかな時間を楽しむ「私」だったが、喫茶店について、ある違和感を拭えずにいた。 その違和感とは一体――? ----------------- 筑波大学学園祭「雙峰祭」にて、筑波大学ミステリー研究会が出店する喫茶店で、毎年出題しているミステリクイズ、「5分間ミステリ」のバックナンバーです。解答編は、問題編公開の翌日に公開されます。 5分間と書いていますが、時間制限はありません。 Vol.1は、2016年に出題された問題。 問題文をよく読んで、あまり深く考えないで答えてみてください。 なお、実際の喫茶店は、もっと賑わっておりますので、ご安心ください。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...