ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第一章 好奇心の代償【現在 七色七奈】

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 新聞社で働いているからといって、特にプロ根性というか、常にスクープを狙って生きているわけではない私。好奇心――というよりも、気味の悪さのせいで、テープの続きが気になった。

 変な酔い方をしてしまったし、今日はさっさと寝てしまったほうが良さそうだ。私はその日の活動を切り上げ、そして片付けもそこそこにベッドへと潜り込んだ。一晩ゆっくりと眠れば、この気味の悪さも払拭されるだろうと考えつつ。

 ――翌日、目覚めは最悪だった。払拭されるはずの気味の悪さは逆に増殖していた。朝からビデオデッキが目に入り、そしてテープの内容を思い出す。朱里の意図がまるで分からないからおそろしい。どうして、今になって、大して仲も良くなかった私に、こんなビデオテープを送りつけてきたのか。

 仕事には普段通りに行ったが、しかしビデオテープのことが気になって仕事がまるで手につかなかった。そこで私は決心をする。気味の悪さ――いいや、得体の知れない不安感は時間と共に増すばかりだ。どうやら、実際に現地へと向かい、テープの確認をしなければ気が済まないらしい。それは、曲がりなりにも新聞社で働く私の中にある記者魂のせいなのか、それとも変なところにだけ神経質になる生来の性格がゆえか。

 たまたまその日が金曜日だったこともあり、私は月曜日から数日間の有給休暇を取得することにした。少し前から有給を消化するようにとのお達しが出ていたこともあって、簡単に取得することができた。

 家に帰ると、必要最低限のものを旅行鞄に詰め込む。もしかすると、実際に学校へと赴いたところで、ビデオテープなんて見つからないのかもしれない。しかし、そうなったらそうなったで、自分はやれることをやったのだから――と納得できそうな気がする。とにもかくにも、テープのことを無かったことにして生活に戻ることは難しいように思えた。

 何泊するのか分からないから、当然ながら旅館などもおさえてはいない。正直、なんとでもなると思っている。もっとも、こんな時間から出るのだから、初日はまず間違いなく車中泊になるだろうが。


本当ならば電車などを使いたいのであるが、やはり自家用車を出したほうがいいだろう。普段は買い物に出る時くらいしか乗らないし、友人から譲ってもらった軽自動車は車庫の肥やしとなっている。たまに動かしておかないとバッテリーがあがってしまうと聞いたことがある。長距離の運転は心配だが、宿が取れなかった場合を考えると、間違いなく車はあったほうが良かった。

 
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