ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
10 / 203
第一章 好奇心の代償【過去 赤松朱里】

2

しおりを挟む
 思った通り、ハンディカムビデオカメラは、タンスの肥やしならぬ段ボールの肥やしになっていたらしい。埃まみれのハンディカムビデオカメラを取り出すと、簡単に埃を払う。ついでに、一緒に入っていた未開封のテープを数本持ち出した。まだ数本段ボールの中に未開封のテープが残ってはいるが、そこまで多くのテープは必要ないだろう。そこで段ボールを戻そうとして、充電器を取り出していないことに気づいた。いくらハンディカムビデオカメラを持って行っても、バッテリーがなければ話にならない。夜までに充電しておかなかれば。バッテリーがセットされたままの充電器を引っ張り出すと、元あった位置に段ボールを戻した。

 自分の部屋へと戻ると、早速バッテリーの充電を始める。出発は夜であるし、それまでにはさすがに充電も終わるだろう。朱里は改めて荷物の確認作業へと戻った。

 まだ中学3年生ということもあり、夜の外出にはさすがに親が口出ししてくると思われる。この辺りは事前に口裏を合わせて、少し季節の早い花火をするということになっている。明確な理由があれば、夜の外出くらい許してもらえるだろう。なんせ、もう15歳なのだから。

 そこから朱里は、ごくごく当たり前の1日を過ごした。両親が帰ってくると、たった今起きたふりをして一緒に朝食を食べた。夜に外出する布石として、お昼まで、両親の農作業を手伝った。手伝ったといっても、父親の運転するトラクターに一緒に乗っていただけであり、体力は充分に温存できた。体力は可能な限り夜に残しておきたい。

 お昼を食べに家へと帰ると、久方ぶりに昼寝をする。小さい頃は、この昼寝というのがどうにも苦手であり、もちろん現在にいたるまでも昼寝という習慣はない。これも夜に備えるためだった。

 起きると再び荷物を確認する。バッテリーの充電は終わっており、これだけで充分であろうが、念のために、最初から充電器に刺さっていたバッテリーを外してハンディカムビデオカメラのバッテリーと入れ替える。ハンディカムビデオカメラから取り外したバッテリーは充電器へ。

 朱里はそのままビデオの動作確認をする。どうやったら録画が始まるのか。最低限の操作を確認しておく必要があった。ハンディカムビデオカメラは、小さな液晶が内蔵されているタイプで、ファインダーを覗かなくとも、液晶画面を自分のほうに向けることで、撮影している画面を確認することができるタイプだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...