ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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「気が向いたら返してくれる形でいいから。あ、でも差し支えなければ、中身がどんなものなのかは教えて欲しいなぁ」

 本田さんから紙袋を受け取る。私は苦笑いを浮かべつつ「中身については得体がしれないから――。もし変なものだったら相談させてもらうかも」と返した。これ、言葉のアヤでもなんでもなく、本当にそうなのだ。

 私は地方の新聞社に就職し、それと同時に独り暮らしを始めた。大学時代も地元からは離れていたのであるが、大学でできた友人とルームシェアをしていたから、本格的な独り暮らしは久方ぶりだった。新聞社の仕事に追われながら、早いもので1年と少し。こうして、仕事帰りに馴染みの店に寄ってみたり、自炊してみたりと余裕が出てきた。本田さんのお店だって、月に数回程度顔を出すくらいだが、通い始めて1年くらいだ。ようやく人生が音を立てて動き始めた。そんな矢先、私のマンションの郵便ボックスに、奇妙なものが届いた。それこそが、本田に見せた8ミリビデオテープだったのだ。それこそ、手のひらに収まるほどの大きさのビデオテープだ。

 8ミリビデオテープは、A4用紙が入るくらいの大きさの封筒で届いた。差出人は赤松朱里あかまつしゅり。私が小学生の頃の同級生だった。もっとも、私は両親の離婚により、小学生4年生の頃に地元を離れている。それ以来、同窓会らしい同窓会もなく、また成人式は父と新しく生活を始めた自治体のほうの成人式に出たから、朱里とは小学4年生以来全く会っていない。それどころか、当時の同級生さえ、一度も顔を合わせていなかった。

 人間というのは都合の良い生き物で、成長するたびに古い人間関係を取捨選択する。小学校の時に仲の良かった友人も、中学校に上がると疎遠になったりする。新たな人間関係が構築されるに従い、必然的に古い情報は破棄され、新たな人間関係が上書きされる。中学校から高校に上がってもそうだし、大学に行ってもそうだ。私にとっての小学生時代というのは、小学4年生の時に一度アップデートされている。引っ越した先の学校にすぐに馴染み、仲の良い友人もたくさんできた。だからこそ、成人式も引っ越した先の自治体が催す式に出たのだ。はっきり言って、小学校4年生以前の人間関係というのは、私にとってはかなり古い人間関係であり、とっくの昔に破棄されたはずのものだった。

 転校してから一度も会っていない。それにくわえて、特段仲が良かったというわけでもないクラスメイトから届いた荷物。封筒の中に入っていたのは8ミリビデオテープと、手紙が1枚だけ。
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