糾弾ホームルーム! ―ぼくたち、わたしたちの主張―

鬼霧宗作

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それぞれの週末【1】

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 家に到着すると、さっさと車を降りる。それぞれの両親は車を降りて立ち話を始めたようだった。互いの子どもたちが無事だったことを喜ぶ反面で、これからのことなども話しておきたいのであろう。その場に千奈美がいるのかは分からないが、彼女が家に帰ろうが、両親の立ち話に加わっていようが関係ない。どうせ学校に行けば赤の他人なのだから。

 リビングに向かうとテレビをつけてみた。ちょうど時間的には昼の情報番組をやっている時間であるが、どの局も大日本帝国政府が施策する法案や、そのモデルケースの話――すなわち、安藤達のクラスの話でもちきりだった。アンジョリーヌが一喝してくれたはずだが、民放はまるで言うことを聞いていないらしい。どの局も同じような報道をしているなか、囲碁の対局放送をしていたのは国営テレビだけだった。

 チャンネルを民放に戻すと、キッチンに向かい、食パンを引っ張り出してトースターにセットする。オープンキッチンから見渡すリビング。そこに置いてある大型のテレビには、自分の良く知る学校が映っていた。教室内の映像は国営独占だったことが、唯一の救いだったのかもしれない。ただ、教室の中で何が行われていたかは、国営テレビの中継によって明らかだ。そこから様々な物語が肉付けされて報道されているから感心してしまう。

 トースターからパンが飛び出した。焦げ目がしっかりついたカリカリのパンに、冷蔵庫から取り出したバターを塗る。香ばしさにバターが溶け出し、腹の虫が大いに泣いた。一口かじって、とろけるようなバターの風味と、こんがりと焼けたパンの香ばしさに卒倒しそうになった。世の中でこんなに美味いものがあったのかと驚いた。

 ふとテレビに視線を戻すと、いつしか通販番組になっていた。他のチャンネルを回してみても、売れなくなったタレントがレポートする旅番組やら、人気のあるドラマの2時間スペシャルの再放送やらで、どの局も本来なら終了時間ではないはずの情報番組が終わってしまっていた。相変わらず囲碁の対局放送をしている国営テレビからの告げ口があったのか、それとも上からの圧力があったのか。なんにせよ報道を控えよとのお達しがあったのであろう。

「奏多。今しがたまで柿本さんと話をしていたんだけど――もしお前さえ良ければ千奈美ちゃんと一緒に逃げないか? このまま、あれに付き合っていたら、命がいくつあっても足りないと思うんだ」
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