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それぞれの週末【1】
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一社の民放が引き上げると、同じようなことをしていた他の民放テレビクルー達も、こぞって撤収を始める。腰に手を当てて大きく溜め息を漏らしたアンジョリーヌには、真昼間なのに後光が差しているように思えた。
「さて、私達も引き上げましょうか。思ったよりこの仕事、精神的にきついわぁ――」
スイッチがオンになっている彼女は、はきはきとしたアナウンサーというイメージであるが、オフになった彼女はサバサバしたお姉さんという感じがした。そんなアンジョリーヌは、2年4組と、その両親が集まるほうへと改めて向き直り、頭を下げた。
「わたくしどもの同業者が失礼なことをして申し訳ありませんでした。以後、みなさまのプライベートな部分には立ち入らぬように、大日本帝国政府から改めて通達して貰えるようにお願いする次第です。それでは、これにて失礼させていただきます」
カメラ越しにしか見たことのない人気アナウンサー。そんな彼女の新たな一面を見たような気がした。
――家に帰ろう。
誰がそう言いだしたのかは分からないが、アンジョリーヌ達が去ったことにより、自然と家に帰る雰囲気へと空気が切り替わったようだった。それぞれが、それぞれの親族と一緒に家へと帰る。ほとんどの家が車で迎えに来ていたらしく、学校前の通りは一時的に渋滞を引き起こした。ずらりと並んだ車のブレーキランプを眺めつつ、父が漏らした。
「――帰るか」
続けて何かを言いたげだったが、その一言だけで父は口を閉ざした。二人とも仕事のはずなのに、きっと休んで駆けつけてくれたのであろう。自分の子どもの生き死にが左右されるのだから、きっと仕事どころではなかっただろう。それは、人の親にならずとも、なんとなく分かる。
「今夜は奏多が好きなもの作るからね」
昨日の夜から何も食べていないから、夕飯の心配の前に、このままどこか食べに連れて行って欲しいものだ。まぁ、丸一日飲まず食わずで口にする母の味もまた、別格なのかもしれない。
父は辺りを見回すと、いまだに感動の再会を喜んでいる親子達のほうに視線を移す。そして、ぽつりと漏らした。
「柿本さんと乗り合わせで来てるんだが――。あぁ、いた。柿本さん! そろそろ帰りましょう!」
父が手を挙げると、同じクラスの柿本千奈美と、その両親がやって来る。彼女の両親は小さい頃から色々とお世話になったし、少しばかり距離を置き、さも赤の他人ですよと言わんばかりのよそよそしさを出している千奈美とは、小さい頃からの幼馴染だ。
「さて、私達も引き上げましょうか。思ったよりこの仕事、精神的にきついわぁ――」
スイッチがオンになっている彼女は、はきはきとしたアナウンサーというイメージであるが、オフになった彼女はサバサバしたお姉さんという感じがした。そんなアンジョリーヌは、2年4組と、その両親が集まるほうへと改めて向き直り、頭を下げた。
「わたくしどもの同業者が失礼なことをして申し訳ありませんでした。以後、みなさまのプライベートな部分には立ち入らぬように、大日本帝国政府から改めて通達して貰えるようにお願いする次第です。それでは、これにて失礼させていただきます」
カメラ越しにしか見たことのない人気アナウンサー。そんな彼女の新たな一面を見たような気がした。
――家に帰ろう。
誰がそう言いだしたのかは分からないが、アンジョリーヌ達が去ったことにより、自然と家に帰る雰囲気へと空気が切り替わったようだった。それぞれが、それぞれの親族と一緒に家へと帰る。ほとんどの家が車で迎えに来ていたらしく、学校前の通りは一時的に渋滞を引き起こした。ずらりと並んだ車のブレーキランプを眺めつつ、父が漏らした。
「――帰るか」
続けて何かを言いたげだったが、その一言だけで父は口を閉ざした。二人とも仕事のはずなのに、きっと休んで駆けつけてくれたのであろう。自分の子どもの生き死にが左右されるのだから、きっと仕事どころではなかっただろう。それは、人の親にならずとも、なんとなく分かる。
「今夜は奏多が好きなもの作るからね」
昨日の夜から何も食べていないから、夕飯の心配の前に、このままどこか食べに連れて行って欲しいものだ。まぁ、丸一日飲まず食わずで口にする母の味もまた、別格なのかもしれない。
父は辺りを見回すと、いまだに感動の再会を喜んでいる親子達のほうに視線を移す。そして、ぽつりと漏らした。
「柿本さんと乗り合わせで来てるんだが――。あぁ、いた。柿本さん! そろそろ帰りましょう!」
父が手を挙げると、同じクラスの柿本千奈美と、その両親がやって来る。彼女の両親は小さい頃から色々とお世話になったし、少しばかり距離を置き、さも赤の他人ですよと言わんばかりのよそよそしさを出している千奈美とは、小さい頃からの幼馴染だ。
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