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それぞれの週末【1】

それぞれの週末【1】1

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 面白くなかった。世の中には多くの学校があるというのに、どうして自分の学校が選ばれたのか。そして、その学校の中にだって多くのクラスがあるというのに、どうして自分の学年の、どうして自分のクラスに白羽の矢が立ったのか。何よりも面白くないのは――なんだか、今回の一件が感動話のように扱われつつあるということだ。

 あの後――犠牲者遺族による郷野への集団暴行騒動は、警察の到着にて決着となった。7人の人間を殺害した郷野は一切の罪に問われないが、その郷野に暴行を加えた遺族達は、当然ながら罪に問われることになる。何台ものパトカーがやって来て、そして半狂乱になった遺族達は、狭いパトカーの中へと押しやられた。

 地面にじんわりと染み込む血だまり、あらぬ方向へと曲がってしまった手足、潰れてしまって、どちらが前かさえも分からなくなってしまった頭部。パトカーの到着と同時に救急隊員が彼の元へと駆けつけたが、あの様子を見て助かると思った者などいなかったであろう。根津が機転をきかせて友華の目を手で覆ったことが、せめてもの救いだったと思いたかった。彼女に見せるには、あまりにも郷野の姿は無残すぎた。

 勝手に玄関前まで飛び出したことを姫乙に注意されつつ、教室へと戻った。安藤達を勝手に教室から出しておきながら、しかし所定の位置で待機していた兵隊達にきつく注意して回ると、姫乙は改めて一同に着席するように促した。もう郷野が混じっているわけではないのに、兵隊の動きはたどたどしい。

 それから始まったのは【帰りの会】だった。こういう時にホームルームという言葉を使わないのが腹立たしい。その会にて、姫乙は今後の予定について触れた。たまたま今日が金曜日だったということもあり、土曜日と日曜日は休み扱いになる。月曜日はこれまで通りに登校すること――との簡潔な連絡事項のみで、ようやく安藤達は地獄から一時的に解放されることになった。姫乙に言われずとも号令をかける小宮山を見て、自分は決してこの環境には慣れまいと誓った。

「ではぁ、また月曜日の朝にぃ、お会いしましょう。二連休中はぁ、何をしようとも自由ではありますがぁ、この学校の生徒としてぇ、そして周囲から――日本全国から注目されていることを自覚しぃ、高校生らしい健全なる休日をお送り下さぁぁぁい」
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