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#1 毒殺における最低限の憶測【糾弾ホームルーム篇】
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安藤と芽衣が郷野の名前を呼んだことにより、自然と空席になっていた郷野の机に、一同の視線が集められていた。その主が学校に登校しなくなってしばらく。彼の机に感情があるのだとすれば、どんな想いで主を待ち続けたのであろうか。他の机にはちゃんと主がおり、毎日のように使用されているのに――きっと、想像だにできない孤独感を味わっていたに違いない。その主が味わっていた孤独に似た孤独を。
「郷野って――。あの郷野?」
呆気にとられた様子で真綾が呟き、頷いた芽衣の姿に「マジかよ」と坂崎。根津がこれでもかと言わんばかりに音を立てて【犯人は郷野?】と書き殴った。まだ疑問形なのは当然。安藤の中では郷野が犯人ということで決まっているが、他のクラスメイトからすれば、いないとばかり思っていた郷野の名前がポンと出てきて、しかも犯人だというのだから戸惑いもするだろう。
「そう。このクラスで不登校になっていた郷野君。いじめられたせいで学校に来れなくなった、副委員長の幼馴染の郷野君」
もはや感情の移り変わりが激しくて、自分でも良く分からなくなってしまったのであろう。顔を上げた友華の顔は無表情であり、しかし泣きつかれたかのごとくかすれたような声で「本当なの? ゴッちゃん」と呟く。ゴッちゃん――とは、幼馴染がゆえの愛称なのであろう。安藤も幼馴染がいるから知っている。
「でも、どうして郷野が犯人ってことになるんだい? というか、本当に郷野が兵隊に扮しているとも限らないんじゃない?」
副委員長犯人説を力説していた分、あっさりと引き下がれなくなっているのだろう。だからといって顔を真っ赤にすることなく、涼しげな顔で反論してくる伊勢崎。そこで話に割り込むは姫乙だ。
「あぁ、口を挟んで申し訳ないのですがぁぁ、これだけ言わせてくださいぃ。ここで真偽を確かめるためにぃ、兵隊の目出し帽を脱がせよう――なんて展開になりそうですがぁ、それは答えを出す前に答え合わせをしてしまうようなものですのでぇ、禁止とさせていただきますぅ。むろん、推測としてホームルームを進めるのは問題ありませぇぇん」
様子を見て、姫乙が言った通りのことをやろうとしていた安藤は、相変わらず懐中時計を見つめるばかりの姫乙のことをちらりと見て、心の中で舌打ちをする。こちらの考えはお見通しということか。
この【糾弾ホームルーム】は個人がただ答えを出せば良いわけではない。細かい取り決めはないものの、最終的に総意として答えを出さねばならない。だから、姫乙としては決定的な説得材料を出したくないのだ。
「郷野って――。あの郷野?」
呆気にとられた様子で真綾が呟き、頷いた芽衣の姿に「マジかよ」と坂崎。根津がこれでもかと言わんばかりに音を立てて【犯人は郷野?】と書き殴った。まだ疑問形なのは当然。安藤の中では郷野が犯人ということで決まっているが、他のクラスメイトからすれば、いないとばかり思っていた郷野の名前がポンと出てきて、しかも犯人だというのだから戸惑いもするだろう。
「そう。このクラスで不登校になっていた郷野君。いじめられたせいで学校に来れなくなった、副委員長の幼馴染の郷野君」
もはや感情の移り変わりが激しくて、自分でも良く分からなくなってしまったのであろう。顔を上げた友華の顔は無表情であり、しかし泣きつかれたかのごとくかすれたような声で「本当なの? ゴッちゃん」と呟く。ゴッちゃん――とは、幼馴染がゆえの愛称なのであろう。安藤も幼馴染がいるから知っている。
「でも、どうして郷野が犯人ってことになるんだい? というか、本当に郷野が兵隊に扮しているとも限らないんじゃない?」
副委員長犯人説を力説していた分、あっさりと引き下がれなくなっているのだろう。だからといって顔を真っ赤にすることなく、涼しげな顔で反論してくる伊勢崎。そこで話に割り込むは姫乙だ。
「あぁ、口を挟んで申し訳ないのですがぁぁ、これだけ言わせてくださいぃ。ここで真偽を確かめるためにぃ、兵隊の目出し帽を脱がせよう――なんて展開になりそうですがぁ、それは答えを出す前に答え合わせをしてしまうようなものですのでぇ、禁止とさせていただきますぅ。むろん、推測としてホームルームを進めるのは問題ありませぇぇん」
様子を見て、姫乙が言った通りのことをやろうとしていた安藤は、相変わらず懐中時計を見つめるばかりの姫乙のことをちらりと見て、心の中で舌打ちをする。こちらの考えはお見通しということか。
この【糾弾ホームルーム】は個人がただ答えを出せば良いわけではない。細かい取り決めはないものの、最終的に総意として答えを出さねばならない。だから、姫乙としては決定的な説得材料を出したくないのだ。
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