上 下
56 / 468
#1 毒殺における最低限の憶測【糾弾ホームルーム篇】

19

しおりを挟む
「安藤、それは何を根拠に言っておるのだ?」

 熱血漢の根津は、安藤のことを昼安藤と呼んだりはしない。カーストの高い低いで人を見る目を変えたりもしない。そんな根津に期待されたような気がして、少しだけ嬉しかった。

「昨日のお昼休みに、偶然だけど副委員長達の会話を聞いたんです。話をしていたのは亡くなった磯部さんと沼田さん。そして副委員長だった。内容は他愛もないもので、どこかのお店でケーキバイキングをしているから、そこに行こうというもの。特に磯部さんがケーキバイキングに行きたいみたいな感じだった気がする」

 クラスのみんなの前で、これだけの言葉を並べ立てるなど初めてだ。現代文の授業で朗読する文章量よりも多くなるのではないか。だから妙な敬語が混じるのかもしれない――。そんなことを思いながらも続ける。

「磯部さんと沼田さんはケーキバイキングに対して肯定的だった。でも、副委員長は……一人だけ否定的だったんだ。太るからとか、甘い物は苦手だからとか――色々と理由をつけて断っていたけど、本当は乳製品アレルギーのせいで、ケーキが食べられなかったから、否定的だったんじゃないでしょうか?」

 その一言は友華に向けてのものだった。当時の会話をたまたま聞いていたのは、恐らく安藤だけであろう。そして、会話をしていた本人達は友華を除いて死亡している。つまり、会話の内容を知っているのは安藤と友華だけであり、クラスメイトに対する説得力は生じない。そこに説得力を生じさせるのは簡単。友華本人が認めてしまえばいい。

「あの時、沼田さんが副委員長に対して謝ってから、何かを言いかけたのを聞いたんだ。あれは副委員長が乳製品アレルギーであることを考慮しなかったことに対して、謝ったんじゃないでしょうか?」

 昼休みの会話が蘇る。あの時、沼田友希は友華に対して何らかの謝罪をし、そして何かを言いかけた。その先は、本田がお手製のボールをぶつけてくれたおかげで聞き逃してしまったが、恐らく彼女の言葉はこんな感じに続いたにちがいない。

 ――あ、ごめん。友華って確か……乳製品アレルギーだったよね。

 友華は何も答えない。別に責めるような口調になっているつもりはないのだが、もしかすると問責もんせきしているようになっているのかもしれない。もう少し柔らかな口調を意識すべきか。そう思った矢先のことだった。友華が口を開く。

「そうです――。私は小さい頃から乳製品アレルギーで、だから喉が渇いていても牛乳は飲めなかったんです。本当は喉が渇いて仕方がなかったのに」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

【完結】深海の歌声に誘われて

赤木さなぎ
ミステリー
突如流れ着いたおかしな風習の残る海辺の村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観! ちょっと不思議で悲しくも神秘的な雰囲気をお楽しみください。 海からは美しい歌声が聞こえて来る。 男の意志に反して、足は海の方へと一歩、また一歩と進んで行く。 その歌声に誘われて、夜の冷たい海の底へと沈んで行く。 そして、彼女に出会った。 「あなたの願いを、叶えてあげます」 深海で出会った歌姫。 おかしな風習の残る海辺の村。 村に根付く“ヨコシマ様”という神への信仰。 点と点が線で繋がり、線と線が交差し、そして謎が紐解かれて行く。 ―― ―― ―― ―― ―― ―― ―― 短期集中掲載。毎日投稿します。 完結まで執筆済み。約十万文字程度。 人によっては苦手と感じる表現が出て来るかもしれません。ご注意ください。 暗い雰囲気、センシティブ、重い設定など。

【か】【き】【つ】【ば】【た】

ふるは ゆう
ミステリー
姉の結婚式のために帰郷したアオイは久しぶりに地元の友人たちと顔を合わせた。仲間たちのそれぞれの苦痛と現実に向き合ううちに思いがけない真実が浮かび上がってくる。恋愛ミステリー

パンアメリカン航空-914便

天の川銀河
ミステリー
ご搭乗有難うございます。こちらは機長です。 ニューヨーク発、マイアミ行。 所要時間は・・・ 37年を予定しております。 世界を震撼させた、衝撃の実話。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。 ――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる 『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。 俺と俺の暮らすこの国の未来には、 惨めな破滅が待ち構えているだろう。 これは、そんな運命を変えるために、 足掻き続ける俺たちの物語。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...