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それぞれの週末【終】
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ホテル側のスタッフは、料理の提供やら酒の補充などをしてくれるのであろう。これだけ小規模な会場だからか、なんだか閉塞感のようなものを感じた。
あぁ、これはあれだ。あの時の教室のようではないか。命を姫乙に握られてしまった自分達と、人数が減って広いはずなのに、兵隊達と鑑識官がいるものだから、妙に窮屈に思えた教室。芽衣が意図的に再現したわけではないだろうが、きっと誰もが懐かしの教室を思い浮かべたに違いない。
勢い良く扉が開き、あの坊ちゃん刈りのいい大人が入ってくる――なんて余計なサプライズはさすがになかった。むしろ、またあの男がこの場に現れたらと考えただけでゾッとする。
平々凡々で結構。何事もなく毎日を過ごせることこそが至高の幸せであって、それ以上のものを求める必要はない。きっと誰もが過去に封印したいであろうに、こうして全員がここに集まったということだけでも、感謝すべきことではないだろうか。
全員に飲み物が配られると、芽衣が香純に目配せをする。すると、ホテルのスタッフが用意してくれたマイク台のほうへと向かう香純。改めて辺りを見回してから口を開いた。音楽のひとつさえ流れていなかった会場に、香純の声が響き渡る。
「それでは、ただ今より2年4組の同窓会を始めます。では早速、委員長から乾杯の音頭を取ってもらいます。委員長は前へ――」
この場面だからこそ、彼に花を持たせたのだろうか。指名された委員長は、やや恥ずかしげにしながらみんなの前に立つ。
「委員長、余計な御託はいらねぇぞ! さっさと飲ませてくれよ」
本田が野次を飛ばす。委員長なりに話したいことはあったのかもしれないが、良くも悪くも扱いが高校時代から変わっていないことに苦笑いを浮かべた委員長は、ただ高々とグラスを掲げた。
「そ、それでは2年4組の再会を祝って――乾杯っ!」
乾杯の声が会場から上がり、そして久方ぶりの同窓会が始まる。再会を祝う一口目の酒は随分と美味かった。
大日本帝国はいまだに独裁的であり、国民は国に飼い慣らされている。姫乙に一矢を報いた安藤達だが、大日本帝国政府から目をつけられることもなく、また大日本帝国政府に逆らうこともできず、気がつけば他の国民と同じように飼い慣らされている。
少し苦味の強いビールと、随分席の数が少ない同窓会。青春は遥か昔に置いてきてしまった。きっとこれからも平々凡々な毎日が続くのであろう。でも、せめて――せめて、もう一度だけ芽衣にアタックしてもいいのではないか。支配的な国ではあっても、その辺りのことは自由のはずだ。
安藤は胸の内に決意を固めると、アルコールを一気に飲み干し、その一歩を踏み出した。
―完―
あぁ、これはあれだ。あの時の教室のようではないか。命を姫乙に握られてしまった自分達と、人数が減って広いはずなのに、兵隊達と鑑識官がいるものだから、妙に窮屈に思えた教室。芽衣が意図的に再現したわけではないだろうが、きっと誰もが懐かしの教室を思い浮かべたに違いない。
勢い良く扉が開き、あの坊ちゃん刈りのいい大人が入ってくる――なんて余計なサプライズはさすがになかった。むしろ、またあの男がこの場に現れたらと考えただけでゾッとする。
平々凡々で結構。何事もなく毎日を過ごせることこそが至高の幸せであって、それ以上のものを求める必要はない。きっと誰もが過去に封印したいであろうに、こうして全員がここに集まったということだけでも、感謝すべきことではないだろうか。
全員に飲み物が配られると、芽衣が香純に目配せをする。すると、ホテルのスタッフが用意してくれたマイク台のほうへと向かう香純。改めて辺りを見回してから口を開いた。音楽のひとつさえ流れていなかった会場に、香純の声が響き渡る。
「それでは、ただ今より2年4組の同窓会を始めます。では早速、委員長から乾杯の音頭を取ってもらいます。委員長は前へ――」
この場面だからこそ、彼に花を持たせたのだろうか。指名された委員長は、やや恥ずかしげにしながらみんなの前に立つ。
「委員長、余計な御託はいらねぇぞ! さっさと飲ませてくれよ」
本田が野次を飛ばす。委員長なりに話したいことはあったのかもしれないが、良くも悪くも扱いが高校時代から変わっていないことに苦笑いを浮かべた委員長は、ただ高々とグラスを掲げた。
「そ、それでは2年4組の再会を祝って――乾杯っ!」
乾杯の声が会場から上がり、そして久方ぶりの同窓会が始まる。再会を祝う一口目の酒は随分と美味かった。
大日本帝国はいまだに独裁的であり、国民は国に飼い慣らされている。姫乙に一矢を報いた安藤達だが、大日本帝国政府から目をつけられることもなく、また大日本帝国政府に逆らうこともできず、気がつけば他の国民と同じように飼い慣らされている。
少し苦味の強いビールと、随分席の数が少ない同窓会。青春は遥か昔に置いてきてしまった。きっとこれからも平々凡々な毎日が続くのであろう。でも、せめて――せめて、もう一度だけ芽衣にアタックしてもいいのではないか。支配的な国ではあっても、その辺りのことは自由のはずだ。
安藤は胸の内に決意を固めると、アルコールを一気に飲み干し、その一歩を踏み出した。
―完―
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