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それぞれの週末【終】

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 しばらくすると本田も戻ってきて、舞の変わりように坂崎と同じようなリアクションを見せる。少し離れた席にいた人が咳払いをした。

「これでほとんど集まったって感じか? 後は越井に大槻だな――あれ、誰か忘れてねぇか?」

 本田は本気で言っているのだろうか。それとも冗談で言っているのか。その様子を見る限りでは、どうやら本気で言っているようだが。またしても離れた席にいた人が咳き込んだ。風邪でもひいているのだろうか。

「マジで言ってるのか一馬……。委員長がまだ来てねぇだろう?」

 ひときわ大きな咳払いが響いた。本田が「さっきからうるせぇなぁ」とぼやく。自然とみんなの視線が少し離れた席へと向かった時、まるで待っていたかのように、何度も咳き込んでいたであろう人が振り返った。

 当時かけていたはずの眼鏡はコンタクトに変えたのであろうか。それでも、その人物が委員長である小宮山だと気づくのには時間がかかってしまった。ぽつりと舞が「委員長だ――」と漏らさなければ気づかなかったかもしれない。

「や、やぁ。久しぶりだね」

 小宮山はそう言うと席を立ち、安藤達のほうへとやって来た。その雰囲気は当時と何も変わっていない。

「い、委員長。いつからそこにいたんだ?」

 誰一人として彼のことに気づかなかったのは、少なからずとも彼の心に傷をつけたことであろう。だから、坂崎がフォローを入れようとしたのだが、しかし逆効果に終わる。

「いや、君達が来る大分前から――」

 あぁ、何とも気まずきことかな。かつてはカーストのトップにいて、周囲のことなんて一切気にもかけなかった本田が、フォローを入れる事態になるなんて。

「そ、そうか。いや、大人になってすっかりみんな変わったなぁ。俺、委員長も変わりすぎて分からなかったわ」

 ――確かにみんな大人になった。しかしながら、面影は当然のようにあるし、気づかないということはない。そもそも小宮山の場合は存在そのものに気づかなかったのだから、変わろうが変わらなかろうが関係ないと思うのだが。

 それでも久方ぶりの、しかも少数での同窓会。楽しいものにしたいと思うのは誰とて同じであろう。真綾を筆頭とする女性陣もフォローを入れ、なんとかその場をごまかすことができた。

「もうそろそろ時間ね。会場に行ってみない? 幹事もそこで私達を待っているかもしれないし」

 腕時計に視線を落としたのは小雪だった。男性陣は全て揃ったが、まだ女性陣が揃っていなかった。この時間まで姿を現さないとなると、すでに会場入りしたのかもしれない。
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