379 / 468
それぞれの週末【3】
3
しおりを挟む
ファミレスへと到着すると料金を支払う。本当ならば国営テレビで領収書を切ってやりたかったのだが、そこはぐっと堪えた。あの大槻芽衣から忠告を受けていたのだ。
――できる限り足跡を残さないで欲しい。
この場で領収書を切ってしまえば、記録が残ってしまう。少なくとも国営テレビの人間が、このファミレスまでタクシーを走らせたという足跡がだ。この件に関しては足立にも注意するよう事前に忠告してあった。
「アンジさん――ですよね?」
タクシーを見送ると、背後から声をかけられた。プライベートで自分のことを中途半端に省略してそう呼ぶのは、テレビ仲間しかいない。どうやら足立達のほうが先に到着していたようだ。マスクをしたすっぴん顔は、どうやら身近な人間にさえ有効らしい。
「悪いわね足立さん。忙しいだろうに呼出しちゃって」
足立はアンジョリーヌより年上。むしろ、テレビクルーは全員アンジョリーヌより年が上だし、職歴も彼らのほうが長い。初めて現場に出た時から同じ面子だ。
「いや――ちょうどひと段落したから帰ろうって話になってたところですよ。あの仕事は、精神的にかなりやばいですから。ねぇ、阿部さん」
足立はそう言うと、かぶっていたキャップを目深にかぶり直した。アンジョリーヌからすれば全員が年上だが、足立が一番年が近かった。
「俺は同じ歳くらいの娘がいるからなぁ。自分の娘があんな目に遭ったと考えたらぞっとするよ。まぁ、あんまり声を大きくして言えないけどな」
足立に振られて溜め息を漏らしたのは、カメラマンの阿部だった。昔はかなりヤンチャをしていたらしく、その雰囲気は今の風貌からもしっかり伝わってくる。根は優しいのであるが、見た目で損をしている部分はかなりあるだろう。
「アンジ、俺は眠い。用事があるならさっさと済ませろ。それに、ここで立ち話というのも妙な話だと俺は思う」
そこでようやく口を開いたのは、照明担当の池田だった。普段から寡黙で無駄口はほとんど叩かない。年齢的には阿部が年長者なのであるが、どこかクルーをまとめる役割は池田がやっているような気がする。
「そうね、それじゃ中で話をしましょう。心配しなくても、ここは私が全部持つから安心して」
アンジョリーヌ達はファミレスの中へと入り、店員に案内されて窓際のテーブルへと着く。少しばかり無理を言って、他のお客がいる席から離れた場所にしてもらった。これで密談の準備は完了。店員からも、アンジョリーヌ本人だとは気づかれなかったようだ。胸をなで下ろす反面、なんだかムッとした。悪かったな、すっぴんが貧相で。
――できる限り足跡を残さないで欲しい。
この場で領収書を切ってしまえば、記録が残ってしまう。少なくとも国営テレビの人間が、このファミレスまでタクシーを走らせたという足跡がだ。この件に関しては足立にも注意するよう事前に忠告してあった。
「アンジさん――ですよね?」
タクシーを見送ると、背後から声をかけられた。プライベートで自分のことを中途半端に省略してそう呼ぶのは、テレビ仲間しかいない。どうやら足立達のほうが先に到着していたようだ。マスクをしたすっぴん顔は、どうやら身近な人間にさえ有効らしい。
「悪いわね足立さん。忙しいだろうに呼出しちゃって」
足立はアンジョリーヌより年上。むしろ、テレビクルーは全員アンジョリーヌより年が上だし、職歴も彼らのほうが長い。初めて現場に出た時から同じ面子だ。
「いや――ちょうどひと段落したから帰ろうって話になってたところですよ。あの仕事は、精神的にかなりやばいですから。ねぇ、阿部さん」
足立はそう言うと、かぶっていたキャップを目深にかぶり直した。アンジョリーヌからすれば全員が年上だが、足立が一番年が近かった。
「俺は同じ歳くらいの娘がいるからなぁ。自分の娘があんな目に遭ったと考えたらぞっとするよ。まぁ、あんまり声を大きくして言えないけどな」
足立に振られて溜め息を漏らしたのは、カメラマンの阿部だった。昔はかなりヤンチャをしていたらしく、その雰囲気は今の風貌からもしっかり伝わってくる。根は優しいのであるが、見た目で損をしている部分はかなりあるだろう。
「アンジ、俺は眠い。用事があるならさっさと済ませろ。それに、ここで立ち話というのも妙な話だと俺は思う」
そこでようやく口を開いたのは、照明担当の池田だった。普段から寡黙で無駄口はほとんど叩かない。年齢的には阿部が年長者なのであるが、どこかクルーをまとめる役割は池田がやっているような気がする。
「そうね、それじゃ中で話をしましょう。心配しなくても、ここは私が全部持つから安心して」
アンジョリーヌ達はファミレスの中へと入り、店員に案内されて窓際のテーブルへと着く。少しばかり無理を言って、他のお客がいる席から離れた場所にしてもらった。これで密談の準備は完了。店員からも、アンジョリーヌ本人だとは気づかれなかったようだ。胸をなで下ろす反面、なんだかムッとした。悪かったな、すっぴんが貧相で。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる