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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】

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 小雪もまた、自殺願望のようなものを抱いていた。それこそ、途中でホームルームを混乱させるような発言までしている。ダイイングメッセージを読み解き、香純のことを犯人に仕立て上げようとしたのも彼女だ。

「いいや、状況が星野崎が犯人だと物語っている。むしろ、星野崎が犯人じゃなかったら、この事件は成立さえしなかった。姫乙、お前の言っていることはただの屁理屈だ!」

 天井のボウガンを用いた殺人偽装。それを見事に実行できたのは、全ての仕組みを知っていた星野崎だからこそだ。もし第三者が同様の手段で星野崎を殺害しようとした場合、どうしても運に頼るような場面が出てくる。チャンスはたった一度しかないし、捜査の段階で天井裏のボウガンの存在まで明らかにされてしまった。背負ったリスクに対して結果が伴っていない。

「安藤君、あなたの推測だと、天井裏には星野崎君の指紋が残っているのよね? だったら、改めて姫乙に確認してみましょうよ。はぐらかされても嫌だから、具体的にね」

 姫乙との押し問答に、芽衣が助け舟を出してくれた。明確にならず曖昧になっている部分を掘り下げることで姫乙の逃げ道を塞ぐつもりらしい。その意図を察したのか、本田が口を開く。

「そうだな。この中の人間の指紋が検出されなかった――って結果しか聞いてねぇからなぁ。もし誰かの指紋が検出されたのなら、それが誰のものだったのか俺達に教えろよ」

 本田が加勢したからなのか、他のクラスメイトも同じようなことを口にする。引っ込み思案な舞と、もはや今となっては何を考えているのかよく分からない小雪は黙っていたようだが、真綾に香純、小宮山が口々に不満を漏らした。それだけ、姫乙の態度に腹が立っていたのであろう。

「姫乙――天井裏で星野崎の指紋は発見されたのか? イエスかノーで答えて欲しい」

 周囲が少し落ち着いてから、改めて口を開く安藤。しかしながら、この程度で姫乙という男は折れたりしない。

「天井裏の指紋に関してはぁ、しっかりと一度答えを出しているはずですぅ。諸君らの疑問に対してぇ、姫乙は誠意をもってお答えしたわけですぅ。ですからぁ、改めてお答えする必要はなしっ! 天井裏に星野崎君の指紋が残っていたのか知りたかったのであれば、諸君らがもっと具体的に鑑識官を使えば良かっただけのことですぅ。それをまるでこちらが悪いみたいな言い方をされましてもねぇ」

 駄目である。まるで駄目。屁理屈を繰り返すばかりで肝心なことは話さない。大日本帝国政府の議員の常套手段だ。
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