糾弾ホームルーム! ―ぼくたち、わたしたちの主張―

鬼霧宗作

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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】

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「それらしき痕跡は資料からも伺える。例えば、天井裏には直径数センチの穴がいくつか空いていたとの記述がある。それに加えて、道場の最南西に位置している畳には、何かを突き刺して引き抜いたような形跡が確認されているともある。これも試射実験を繰り返した証拠になると思う。でも、ここで星野崎は――ちょっとしたミスを犯したんだ」

 試射実験を繰り返すことにより、星野崎はどこにボウガンの矢が飛んでくるのか。また、矢の飛び方にどれだけの振れ幅があるのか――その辺りのことを把握したに違いない。当てるのは自身の背中。決して小さな的ではない。矢が飛んでくる大体の位置を把握してしまえば、後は簡単だったことであろう。しかし、ここで星野崎は、証拠の処理を間違ってしまった。

「――畳の位置ね」

 続いて口を開こうとした安藤を引き止めるかのごとく、芽衣が呟き落とす。ここまで来たら独壇場で喋り切ってやろうかなんてことも思ってしまうが、やはりクラスメイトのみんなにも納得しながら話を聞いて欲しい。だから、合いの手が入るのは大歓迎だった。

「その通り。道場の最南西に位置している畳一枚に、試射実験をしたと思われる痕跡が残されていた。きっと、試射実験が終わった後に畳を入れ替えたんだと思うけど、これは星野崎が手を抜いた結果なんだ」

 安藤が言い終えると、芽衣の確かな息遣いが聞こえたような気がした。これは郷野を二人で追い詰めた時の息遣い。阿吽の呼吸とはまた違うが、妙に両者がリンクしてしまう瞬間。どうやら、あれがまた訪れそうだ。

「北側には使用されていない畳が積み上げられていたと資料にはあるわ。それを踏まえて小宮山君――もしあなたが星野崎君を殺害した立場だったら、明らかに試射をした痕跡が残っている畳をどうする?」

 安藤と芽衣の間だけで推測を進めるのではなく、ここでさりげなくパスを出す辺りが芽衣の凄いところだ。安藤ならば独りよがりの独壇場となってしまう場面なのに。

「北側の畳の下にでも隠す――かな。そこなら見つからないだろうし」

「見つかったら何か困るの?」

 芽衣が間髪入れずに反論したものだから、自分が何か間違ったことでも言ってしまったとでも思ったのであろう。助けを求めるかのように周囲を見渡した後に、小宮山は恐る恐ると口を開く。

「いや、だってボウガンの矢が突き刺さって、それを引き抜かれたような明らかな痕跡があるわけでしょ? そんなもの目につく場所に置いてたら、そこから天井裏のボウガンの存在に気付かれちゃうかもしれない。天井裏のボウガンの存在に気付かれるってことは、ボウガンが時限式だったことがバレてしまうし、そうなったらせっかくのアリバイも台無しになる」
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