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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】
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拍手をアンジョリーヌへとおくる姫乙であるが、その目は全く笑っていない。その感情なき表情には、本能的にぞくりとするものがあった。アンジョリーヌはそれを受け流すことまでやってのけてしまったようだ。
「さてぇ、2年4組の諸君。ちょっとした邪魔が入ってしまいましてぇ、誠に申し訳ございませんでしたぁ。どこかの誰かさんがぁぁ、自己満足で意識高い系のご高説をしている間もぉ、諸君らに残された命は削られ続けていたわけですぅ。ゆえにぃ、残り時間はぁ、後13分と少しぃぃ」
姫乙はわざとらしくアンジョリーヌのほうへと視線を移すと、カメラマンを指差す。そして、そのまま自分のほうへと指を持ってきて、今度は自分のことを指差した。どうやら、自分のことを映せと言っているらしい。カメラマンがカメラを向け、レンズをいじったところで、姫乙は大きく咳払いをした。
「お茶の間の皆さまぁぁ。つい先程ぉ、過激な発言がございましたことをお詫び申し上げますぅ。大日本帝国民は、実直で勤勉でございますぅ。むろん、国のために皆さまはこの世に生を受けぇ、実に運が良く大日本帝国民として生まれたのですぅ。お国のために学び、お国のために働き、そしてお国のために死ぬぅ。それこそが至高の喜びであーりーまーすぅぅぅ。間違ってもぉ、心の奥底にぃ、反国精神など持たぬようにぃぃぃ。そもそもぉ、大日本帝国民の義務としましてぇぇぇ」
「姫乙、言いたいことは分かったからやめてもらえないかしら?」
カメラに向かって言葉を並べ立てる姫乙を遮るかのごとく、芽衣が口を挟んだ。彼女の目は――どうやら姫乙の懐中時計のほうに向けられているようだった。しかし、姫乙はやめない。気味の悪い笑みを浮かべるだけで、やめようとしない。
「大日本帝国民は大日本帝国があるからこそ生があることを自覚しなければなりませんしぃ、国に生活を保障されていることも自覚しておかねばなりませぇぇん。皆さまが働き、そして納めてくださる税金だってぇぇぇ、本当ならばもっと国に納めてもらっても構わないのでぇぇぇす。しかしぃ、そこは慈悲により、深い深い仏のような慈悲によりぃ、国は税率をあえて下げているのでぇぇぇす。それにより贅沢な――」
「おい、やめろや! そんなことしているうちに時間がなくなるだろうが!」
今度は本田が声を荒げる。ふとアンジョリーヌのほうへと視線を移すと、彼女は真っ青な顔をしながら、安藤から目をそらした。自分のやってしまったことの重大さに気付いてしまったのだろう。
「さてぇ、2年4組の諸君。ちょっとした邪魔が入ってしまいましてぇ、誠に申し訳ございませんでしたぁ。どこかの誰かさんがぁぁ、自己満足で意識高い系のご高説をしている間もぉ、諸君らに残された命は削られ続けていたわけですぅ。ゆえにぃ、残り時間はぁ、後13分と少しぃぃ」
姫乙はわざとらしくアンジョリーヌのほうへと視線を移すと、カメラマンを指差す。そして、そのまま自分のほうへと指を持ってきて、今度は自分のことを指差した。どうやら、自分のことを映せと言っているらしい。カメラマンがカメラを向け、レンズをいじったところで、姫乙は大きく咳払いをした。
「お茶の間の皆さまぁぁ。つい先程ぉ、過激な発言がございましたことをお詫び申し上げますぅ。大日本帝国民は、実直で勤勉でございますぅ。むろん、国のために皆さまはこの世に生を受けぇ、実に運が良く大日本帝国民として生まれたのですぅ。お国のために学び、お国のために働き、そしてお国のために死ぬぅ。それこそが至高の喜びであーりーまーすぅぅぅ。間違ってもぉ、心の奥底にぃ、反国精神など持たぬようにぃぃぃ。そもそもぉ、大日本帝国民の義務としましてぇぇぇ」
「姫乙、言いたいことは分かったからやめてもらえないかしら?」
カメラに向かって言葉を並べ立てる姫乙を遮るかのごとく、芽衣が口を挟んだ。彼女の目は――どうやら姫乙の懐中時計のほうに向けられているようだった。しかし、姫乙はやめない。気味の悪い笑みを浮かべるだけで、やめようとしない。
「大日本帝国民は大日本帝国があるからこそ生があることを自覚しなければなりませんしぃ、国に生活を保障されていることも自覚しておかねばなりませぇぇん。皆さまが働き、そして納めてくださる税金だってぇぇぇ、本当ならばもっと国に納めてもらっても構わないのでぇぇぇす。しかしぃ、そこは慈悲により、深い深い仏のような慈悲によりぃ、国は税率をあえて下げているのでぇぇぇす。それにより贅沢な――」
「おい、やめろや! そんなことしているうちに時間がなくなるだろうが!」
今度は本田が声を荒げる。ふとアンジョリーヌのほうへと視線を移すと、彼女は真っ青な顔をしながら、安藤から目をそらした。自分のやってしまったことの重大さに気付いてしまったのだろう。
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