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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【復讐篇】
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元の力関係のようなものが、そこに作用したのであろうか。いや、単純に腕っぷしの強さからして、自然とそうなったのであろう。本田が一人でシャワー室の扉の前に立ち、そして安藤と小宮山はトイレの扉の前に立った。
「シャワー室は俺が調べる。お前らは二人でトイレを調べてくれ。何かあったら大声で呼べよ。すぐに駆けつけてやる」
本田が一人でシャワー室をカバーする。そして、安藤と小宮山がトイレを調べることになるのだが、自然と小宮山の足が女子トイレのほうに向かったのは、もう仕方のないことなのかもしれない。本来より気の小さい男である小宮山が、男子トイレのほうを選択するわけがないのだ。女子トイレに潜むのが女子だと決まっているわけではないのに。
「じゃあ、男子トイレは僕が調べる。女子トイレは委員長が調べてよ」
もはや口に出さずとも、それぞれのポジションというのは決まっていたのだが、あえてそれを口にする安藤と、わざとらしく切り返してくる小宮山。
「だっ、男子トイレは僕が調べようと思ってたんだけど――まぁ、安藤君が調べたいというなら仕方がない。女子トイレを調べるというのは変な罪悪感があるけど、それを我慢して調べるよ」
どう転がしても自分が良い風に映るように装う。小宮山の常套手段であるが、今さらになってどうこう言うつもりはない。根は真面目で、悪いやつではないし。
可能性としてはかなり低いだろうし、まず間違いなく誰も潜んではいない。それは分かっているのであるが、嫌でも心臓が強く鼓動を打つ。本田と小宮山の二人とアイコンタクトを取り、そして一斉に扉を開け放った。本田がシャワー室の中に飛び込み、それを見た安藤はトイレの中に足を踏み入れる。最後になったのは小宮山だったようで、安藤がトイレに入ったのと時間差で、隣の女子トイレの扉が閉まる音がした。
トイレの中はいたってシンプルというべきか、隠れるのであれば個室しかない。幸いなことに手前の掃除用具入れは扉がなく、無造作にモップやらバケツやらが詰め込まれているのが見えた。人が隠れているような気配はない。続いて、安藤は個室のドアに手をかける。深呼吸をしてから勢い良くドアを開けたが、そこには便器がぽつんとあるだけだった。分かっていても安堵の溜め息が出る。
「おらー! 隠れてねぇで出てこいやぁぁぁ!」
シャワー室を調べている本田の声が、壁を隔てて響いてくる。その声が聞こえるだけでも心強く感じるのだから不思議だ。
「シャワー室は俺が調べる。お前らは二人でトイレを調べてくれ。何かあったら大声で呼べよ。すぐに駆けつけてやる」
本田が一人でシャワー室をカバーする。そして、安藤と小宮山がトイレを調べることになるのだが、自然と小宮山の足が女子トイレのほうに向かったのは、もう仕方のないことなのかもしれない。本来より気の小さい男である小宮山が、男子トイレのほうを選択するわけがないのだ。女子トイレに潜むのが女子だと決まっているわけではないのに。
「じゃあ、男子トイレは僕が調べる。女子トイレは委員長が調べてよ」
もはや口に出さずとも、それぞれのポジションというのは決まっていたのだが、あえてそれを口にする安藤と、わざとらしく切り返してくる小宮山。
「だっ、男子トイレは僕が調べようと思ってたんだけど――まぁ、安藤君が調べたいというなら仕方がない。女子トイレを調べるというのは変な罪悪感があるけど、それを我慢して調べるよ」
どう転がしても自分が良い風に映るように装う。小宮山の常套手段であるが、今さらになってどうこう言うつもりはない。根は真面目で、悪いやつではないし。
可能性としてはかなり低いだろうし、まず間違いなく誰も潜んではいない。それは分かっているのであるが、嫌でも心臓が強く鼓動を打つ。本田と小宮山の二人とアイコンタクトを取り、そして一斉に扉を開け放った。本田がシャワー室の中に飛び込み、それを見た安藤はトイレの中に足を踏み入れる。最後になったのは小宮山だったようで、安藤がトイレに入ったのと時間差で、隣の女子トイレの扉が閉まる音がした。
トイレの中はいたってシンプルというべきか、隠れるのであれば個室しかない。幸いなことに手前の掃除用具入れは扉がなく、無造作にモップやらバケツやらが詰め込まれているのが見えた。人が隠れているような気配はない。続いて、安藤は個室のドアに手をかける。深呼吸をしてから勢い良くドアを開けたが、そこには便器がぽつんとあるだけだった。分かっていても安堵の溜め息が出る。
「おらー! 隠れてねぇで出てこいやぁぁぁ!」
シャワー室を調べている本田の声が、壁を隔てて響いてくる。その声が聞こえるだけでも心強く感じるのだから不思議だ。
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