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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【プロローグ】

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「それではぁ、現状においてぇ、アベンジャーを焚き付けるのはやめておきましょうかぁ。もっともぉ、もしかすると私が焚き付けるまでもない状況になってしまったのかもしれませんがぁ。まぁ、平常通り【姫乙史】を続けましょうかねぇ――」

 カチリとスイッチがオフになった音がしたような気がした。殺伐とした空気がふっと消えたように感じるのは、芽衣と姫乙の駆け引きが終わったからであろう。あえて勝敗をつけるのであれば、提案を協議させるところまで持っていった芽衣の勝ちだろう。

 アンジョリーヌ達もその空気を察したのか、さっさと撮影を止めてしまった。それこそ、最初のうちは平常の授業風さえも垂れ流しにしていたらしい。もっとも、やっている教科が【姫乙史】などという馬鹿げた教科だったがゆえに、少なくとも何本かはクレームが入ったらしい。あくまでも大日本帝国政府へのクレームではなく、国営テレビの運営体制についてらしいが。それ以降、有事の際は生中継を行うが、そうではない場合は基本的に放送を取りやめていたようである。親からの情報だから真偽は定かではないが、確かにアンジョリーヌ達もやたらにカメラを回さなくなっていた。

 こうして、いつも通りの日常――と言っても非日常の中の日常が始まった。水面下では確実に周囲を固めつつある安藤達。ルーティーンとなってしまった【姫乙史】でさえ新鮮に感じるほど、クラスの空気が変わりつつあった。

 芽衣の要求が通ってしまえば、この馬鹿げた非日常から解放される可能性がぐっと高くなる。ただ、もう一度だけ事件が起きてくれなければ、非日常から解放される条件を満たせない。事件を解決しなければ解放されないということは、そもそも解決すべき事件が起きてくれなくてはならないのだ。そして、事件が起きるということは――やはり誰かが犠牲にならなければならない。あまり考えたくはないのだが、ここにどうしても帰結してしまう。

 クラスメイトの中に死んで良い人間などいない。でも、誰かが事件の犠牲者にならなければならないし、誰かが事件を起こさねばならない。その辺りは芽衣を信じるしかないだろう。無責任であるが、全てを解決するすべが、すでに芽衣の頭の中にあると考えるしかない。

 2年4組の反撃開始は時間の問題だった。しかし、まだこの時の安藤は知らなかった。2年4組の中に不穏な因子が紛れ込んでいることを。そう――知らなかったのである。
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