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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【プロローグ】
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安藤は一言だけ返すと、その場を去ろうとする。それは無意識に星野崎から逃れようとしたからなのかもしれない。変なボロを出したくなかったからなのかもしれない。
「ま、待てよ安藤ぅ。適当なことを抜かして曖昧に逃げようとしても、そうはいかないんだ。ぼ、僕が集めたデータだと、うまい具合にみんながかぶらないように、それでいて自然に見える程度の人数が、必ず教室の外に出てる。もっと分かりやすく言えばさぁ、まるでローテーションが組まれているみたいに、正確にみんなが動いてるんだよ。どうしてそうなっているのか、安藤なら何か知ってるだろう?」
もちろん、知っている。スマートフォンが正常に使えるかどうか、怪しまれない程度の頻度で繰り返し確認し、ようやく確信することができた。確実性を確立できた。それをみんなと共有していたのだから。
「僕はそんな風には全然思わないけどな。正直、星野崎が集めたデータだって、確実だって保証はないわけだろ? 法則性があるように見えるのだって、ただの偶然。気のせいってこともありえる」
一人でクラスメイト全員のことに気を配るなんて無理な話だ。ゆえにデータの確実性に関しても叩けば埃が出るというか、星野崎が確信を持っていなくて当然なのだ。単なる気のせいであると丸め込むことだって難しくはないだろう。なぜなら、星野崎を除く全員が共犯者のようなものなのだから。いや、さすがに共犯者は聞こえが悪いか。
まるで救いの手を差し伸べるかのごとく、五時間目の予鈴が鳴った。できる限り平静を装いつつ、安藤は星野崎を諭すように口を開く。
「まぁ、気になるならクラスの他の人に聞いてみればいいよ。結局は星野崎の気のせいって結論になるとは思うけどさ」
ボロが出る前に星野崎の前から逃げるのではない。五時間目が始まってしまうから、教室へと戻るのだ。自分にそう言い聞かせながら、安藤は星野崎に背を向けた。
「ま、待ってくれよ安藤。実は、他にも凄いことに――凄い可能性を思いついたんだよ。話を……」
背中に星野崎からの声が飛んできたが、それを無視して安藤は小走りに廊下を駆けていた。毎日毎日、緊張の連続で神経が過敏になっているのか、星野崎の対応ひとつでも冷や汗をかくようになっている自分に気付く。あんな奴、軽くあしらっておけばいいだけなのに。
教室へと戻ると、必要以上に他人行儀にならぬよう、それでいて、なんだか馴れ馴れしくならないように自分を作る。姫乙に悟られぬように、クラスの関係性は変わっていないようにみせかけるためであるが、いざカースト制度が本格的に崩壊してしまうと、前のように振る舞うほうが難しかったりする。
「ま、待てよ安藤ぅ。適当なことを抜かして曖昧に逃げようとしても、そうはいかないんだ。ぼ、僕が集めたデータだと、うまい具合にみんながかぶらないように、それでいて自然に見える程度の人数が、必ず教室の外に出てる。もっと分かりやすく言えばさぁ、まるでローテーションが組まれているみたいに、正確にみんなが動いてるんだよ。どうしてそうなっているのか、安藤なら何か知ってるだろう?」
もちろん、知っている。スマートフォンが正常に使えるかどうか、怪しまれない程度の頻度で繰り返し確認し、ようやく確信することができた。確実性を確立できた。それをみんなと共有していたのだから。
「僕はそんな風には全然思わないけどな。正直、星野崎が集めたデータだって、確実だって保証はないわけだろ? 法則性があるように見えるのだって、ただの偶然。気のせいってこともありえる」
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まるで救いの手を差し伸べるかのごとく、五時間目の予鈴が鳴った。できる限り平静を装いつつ、安藤は星野崎を諭すように口を開く。
「まぁ、気になるならクラスの他の人に聞いてみればいいよ。結局は星野崎の気のせいって結論になるとは思うけどさ」
ボロが出る前に星野崎の前から逃げるのではない。五時間目が始まってしまうから、教室へと戻るのだ。自分にそう言い聞かせながら、安藤は星野崎に背を向けた。
「ま、待ってくれよ安藤。実は、他にも凄いことに――凄い可能性を思いついたんだよ。話を……」
背中に星野崎からの声が飛んできたが、それを無視して安藤は小走りに廊下を駆けていた。毎日毎日、緊張の連続で神経が過敏になっているのか、星野崎の対応ひとつでも冷や汗をかくようになっている自分に気付く。あんな奴、軽くあしらっておけばいいだけなのに。
教室へと戻ると、必要以上に他人行儀にならぬよう、それでいて、なんだか馴れ馴れしくならないように自分を作る。姫乙に悟られぬように、クラスの関係性は変わっていないようにみせかけるためであるが、いざカースト制度が本格的に崩壊してしまうと、前のように振る舞うほうが難しかったりする。
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