上 下
247 / 468
それぞれの週末【2】

それぞれの週末【2】1

しおりを挟む
「なるほどぉ。どうやらぁ、彼らのことを少し甘く見ていたみたいですぅ。ようやくデスゲームに相応しい人数にまで調整できて、これからが面白くなるというのにぃ――そうですかぁ、生意気にも私を嵌めようと目論んでいるわけですかぁ」

 白のガウンがこれほど似合わない男はいないのではないか。薄暗い部屋の中にはアンティークの調度品らしき椅子――恐らく、偽物が置いてあり、それに腰をかけた彼はさらに胡散臭く見えた。

「少しやりたいようにやりすぎたと思うなぁ。2年4組の人間だって馬鹿じゃないし」

 彼――姫乙は、彼女の言葉に笑みを浮かべ、簡易式の冷蔵庫を覗き込んで肩をがっくりと落とす。

「どうしてこうラブホテルというものはぁ、ろくなお酒が置いてないんでしょうかねぇ。ロマネコンティの一本でも置いておけばいいのに――。貧乏人が知らずに飲んで、後でクレームでもつけるのでしょうか? 安ければ100万円くらいで済むのにぃ」

 仕方ないといった様子で、缶ビールを手に取った姫乙。適当なグラスを持って来て、とくとくとビールを注いだ。

「それはそうと、シャワーでも浴びてきなさいなぁ」

 彼女は姫乙の言葉に小さく頷き、そしてシャワー室へと向かった。ラブホテルのシャワー室なんてものは、その大抵が本来の最低限の目的を果たすためだけに機能しているようなもので、馬鹿みたいに浅い貝殻の形をした浴槽には、苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

 ――俗にいう援助交際というものを始めたのは、高校に入ってすぐのことだった。家はごく普通の家であるし、お小遣いも充分過ぎるくらいもらっていた。彼女が援助交際を始めたのは金のためではない。中学生までの暗黒時代との決別のためである。

 中学校時代は本当に目立たなかった。引っ込み事案で、何よりも癖っ毛の強い髪の毛が嫌で仕方がなかった。自分に自信が持てず、唯一の楽しみは漫画やらアニメ。その中のヒロインに自分を当てはめてはみるが、しかし妄想に浸れないくらい自分のことが嫌いだった。そこで彼女は、中学校卒業と同時に、これまでとは違う自分に生まれ変わろうとした。

 高校に入学する頃には、すっかり化粧のやり方も覚え、付け焼き刃ながら日サロとやらで肌を小麦色に焦がし、そして彼女は別人となった。ただ、根本的な部分は引っ込み思案である。新しいクラスには、いかにもといった集団がいたのだが、彼女は話しかけられるのを待つだけだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ソラのいない夏休み

赤星 治
ミステリー
 高校二年の楸(ひさぎ)蒼空(そら)は、他校で同年の幼馴染み、三枝(さえぐさ)日和(ひより)から夏休みの自由研究で双木三柱市(ふたきみつはしらし)で有名な四十二の都市伝説調査に誘われる。  半ば強引ながらも参加させられ、猛暑の中歩き回ることを想像して気が乗らない蒼空の元に、三枝日和が失踪した報せが入る。  神隠しのような日和の失踪を、都市伝説調査で参加していた日和の同級生・御堂(みどう)音奏(かなで)と探る最中、クラスメートの死の予言を聞いた蒼空の同級生・涼城(すずしろ)夏美(なつみ)と協力して調査することになる。  四十二の都市伝説に纏わる謎は、やがて蒼空を窮地に追い詰める。 【本作において】  本作は、以前エブリスタで投稿していた作品を加筆修正(加筆修正箇所はかなり多いです)したものです。物語の内容と結末は同じです。ご了承くださいませ。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...