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#2 ぼくとわたしと禁断の数字【エピローグ】
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実はこのクラスには、やや欠けていた要素がひとつある。もちろん、事件が起きればそれらしい空気が漂っていたものの、解決さえしてしまえば薄れてしまい、これまでのことを乗り越えてきてしまった。
――疑心暗鬼。他人を疑うということ。それが安藤達には欠けていたのだ。アベンジャーという呼び名はあるものの、簡単に言ってしまえば、アベンジャーは法的に殺人が認められた殺人鬼である。どれだけ人を殺そうがアベンジャーは罪に問われず、復讐を果たすことが許されている。ならば、そのアベンジャーが誰なのかをはっきりさせておきたいと思うのが人間なのではないだろうか。誰がアベンジャーなのか分からないまま学校生活を送るくらいならば、話し合いでもなんでもしてアベンジャーを探し出そうとするのが普通ではないだろうか。
それらしい会話は、実のところひとつもない。誰がアベンジャーで誰がアベンジャーではないのか。そのような発想に繋がるような発言も、安藤の記憶を辿ってみるに、一度もなかった。これが一人や二人ならば、まだ偶然で済むのかもしれないが、あれだけいたクラスメイト全員が、意図的にそれらの会話を避けていた気さえする。
「時間はたっぷりあったはずだし、アベンジャーの正体について議論してはならないなんてルールもなかった。私達は話し合おうと思えば、淡々と繰り返される学校生活の中で、いくらでも話し合えたはず。少なくとも【姫乙史】を学ぶ時間があったわけだし――。授業中じゃなくても、昼休みでも放課後でも構わない。いつでも私達はアベンジャー探しをするチャンスがあった。でも、誰も提案しなかった。これだけの人数がいて、全てが始まった日から今日まで、時間は充分にあったはずなのに、誰の口からもアベンジャー探しの提案はなかった。この不自然な状況を説明するとなると、これしかないと思うの」
芽衣は長い髪に手ぐしを通すと、周囲をぐるりと見回してから、改めて口を開いた。
「私達は誰もが追求されたくなかった。もしくは追求されると困る立場だった。だからこそ無意識にその話題は避けたし、提案されることもなかった。だって、実際にアベンジャー探しをすることになった時、困るのはアベンジャーである自分自身なんだから。――ここまでが私の根拠。クラスメイト全員が最初からアベンジャーだったのではないかと疑った根拠よ」
大理石のテーブルに手を置くと、随分と冷たく感じられた。誰もが互いの顔を伺い合っているように見える。
――疑心暗鬼。他人を疑うということ。それが安藤達には欠けていたのだ。アベンジャーという呼び名はあるものの、簡単に言ってしまえば、アベンジャーは法的に殺人が認められた殺人鬼である。どれだけ人を殺そうがアベンジャーは罪に問われず、復讐を果たすことが許されている。ならば、そのアベンジャーが誰なのかをはっきりさせておきたいと思うのが人間なのではないだろうか。誰がアベンジャーなのか分からないまま学校生活を送るくらいならば、話し合いでもなんでもしてアベンジャーを探し出そうとするのが普通ではないだろうか。
それらしい会話は、実のところひとつもない。誰がアベンジャーで誰がアベンジャーではないのか。そのような発想に繋がるような発言も、安藤の記憶を辿ってみるに、一度もなかった。これが一人や二人ならば、まだ偶然で済むのかもしれないが、あれだけいたクラスメイト全員が、意図的にそれらの会話を避けていた気さえする。
「時間はたっぷりあったはずだし、アベンジャーの正体について議論してはならないなんてルールもなかった。私達は話し合おうと思えば、淡々と繰り返される学校生活の中で、いくらでも話し合えたはず。少なくとも【姫乙史】を学ぶ時間があったわけだし――。授業中じゃなくても、昼休みでも放課後でも構わない。いつでも私達はアベンジャー探しをするチャンスがあった。でも、誰も提案しなかった。これだけの人数がいて、全てが始まった日から今日まで、時間は充分にあったはずなのに、誰の口からもアベンジャー探しの提案はなかった。この不自然な状況を説明するとなると、これしかないと思うの」
芽衣は長い髪に手ぐしを通すと、周囲をぐるりと見回してから、改めて口を開いた。
「私達は誰もが追求されたくなかった。もしくは追求されると困る立場だった。だからこそ無意識にその話題は避けたし、提案されることもなかった。だって、実際にアベンジャー探しをすることになった時、困るのはアベンジャーである自分自身なんだから。――ここまでが私の根拠。クラスメイト全員が最初からアベンジャーだったのではないかと疑った根拠よ」
大理石のテーブルに手を置くと、随分と冷たく感じられた。誰もが互いの顔を伺い合っているように見える。
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