猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【エピローグ】

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「さぁ? その辺りのことは全く知りません。詳しいことは、また連絡が入ると思いますが」

 千早が答えると、今度は班目が問うてくる。

「ちなみに、その作家さんのお名前は?」

 竹藤というのは便宜上の偽名であるが、ある意味ペンネームというのも偽名である。支払いの都合で本名も聞いていたから、そちらのほうをぶちまけてやろうかとも思ったが、ぐっと堪えた。

「えっと、その作家のお名前は――」

 雪深い妻有郷という街の、さらに市街地からは峠をひとつ越えた先にある集落。道の駅が出てきたら、ぜひともまずはそこに寄って、豆大福に手挽きのコーヒーで一服して欲しい。行楽シーズンになると、あっという間に豆大福は売り切れてしまうから、もしその地を訪れるのであれば、わざとシーズンを外したほうがいいだろう。一応、観光地ということもあり、シーズン中は非常に混み合うし、豆大福も午前中には売り切れてしまう。ただ、それに合わせてお店にも向かっても、そもそもやっていない可能性がある。この作品のモデルとなった彼女は、現在高校3年生となっており、昼間は高校に通っているだろうから。

 シーズンを外して、可能な限り夕方近くに道の駅で一服したら、国道を挟んで道の駅の真反対にある集落へ入る。道が二手に分かれているが、脇に入る道は避けて道なりに進めばいい。本当にこんなところに商店があるのか――と不安になるほど、穏やかな光景が広がるが、心配することはない。誰もが同じような不安を抱くことだろうから。それほどまでに、あの辺りは長閑のどかでゆっくりと時間が流れている。

 目印は郵便局だ。看板のデザインはきっと全国共通であろうし、住宅街に突然現れるから、誰にでも見つけることができるだろう。郵便局を通過したら、左手のほうへと注目。しばらく行くと猫屋敷古物商店の看板が見えるはずだ。そこで降りてしまいたくなる衝動を抑えて、その先にある集会所の駐車場に車を停めよう。

 そこから先は運任せ。運が良ければ店が開いているだろうし、彼女が出迎えてくれることだろう。ただ、品物を持ち込むのであれば、本当にいわくのあるものでなければならない。そうでなければ、嘘は簡単に見破られ、安く買い叩かれてしまうことだろう。まぁ、彼女に会うことが目的なら、それはそれで構わないが。

 ――猫屋敷古物商店。店を開ける日はもちろんのこと、営業時間も全て気まぐれの古物商店。その店は、今日も日本のどこかで、新たないわくを待ち望んでいることであろう。


【猫屋敷古物商店の事件台帳 ―完―】
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