225 / 226
査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【エピローグ】
6
しおりを挟む
「さぁ? その辺りのことは全く知りません。詳しいことは、また連絡が入ると思いますが」
千早が答えると、今度は班目が問うてくる。
「ちなみに、その作家さんのお名前は?」
竹藤というのは便宜上の偽名であるが、ある意味ペンネームというのも偽名である。支払いの都合で本名も聞いていたから、そちらのほうをぶちまけてやろうかとも思ったが、ぐっと堪えた。
「えっと、その作家のお名前は――」
雪深い妻有郷という街の、さらに市街地からは峠をひとつ越えた先にある集落。道の駅が出てきたら、ぜひともまずはそこに寄って、豆大福に手挽きのコーヒーで一服して欲しい。行楽シーズンになると、あっという間に豆大福は売り切れてしまうから、もしその地を訪れるのであれば、わざとシーズンを外したほうがいいだろう。一応、観光地ということもあり、シーズン中は非常に混み合うし、豆大福も午前中には売り切れてしまう。ただ、それに合わせてお店にも向かっても、そもそもやっていない可能性がある。この作品のモデルとなった彼女は、現在高校3年生となっており、昼間は高校に通っているだろうから。
シーズンを外して、可能な限り夕方近くに道の駅で一服したら、国道を挟んで道の駅の真反対にある集落へ入る。道が二手に分かれているが、脇に入る道は避けて道なりに進めばいい。本当にこんなところに商店があるのか――と不安になるほど、穏やかな光景が広がるが、心配することはない。誰もが同じような不安を抱くことだろうから。それほどまでに、あの辺りは長閑でゆっくりと時間が流れている。
目印は郵便局だ。看板のデザインはきっと全国共通であろうし、住宅街に突然現れるから、誰にでも見つけることができるだろう。郵便局を通過したら、左手のほうへと注目。しばらく行くと猫屋敷古物商店の看板が見えるはずだ。そこで降りてしまいたくなる衝動を抑えて、その先にある集会所の駐車場に車を停めよう。
そこから先は運任せ。運が良ければ店が開いているだろうし、彼女が出迎えてくれることだろう。ただ、品物を持ち込むのであれば、本当にいわくのあるものでなければならない。そうでなければ、嘘は簡単に見破られ、安く買い叩かれてしまうことだろう。まぁ、彼女に会うことが目的なら、それはそれで構わないが。
――猫屋敷古物商店。店を開ける日はもちろんのこと、営業時間も全て気まぐれの古物商店。その店は、今日も日本のどこかで、新たないわくを待ち望んでいることであろう。
【猫屋敷古物商店の事件台帳 ―完―】
千早が答えると、今度は班目が問うてくる。
「ちなみに、その作家さんのお名前は?」
竹藤というのは便宜上の偽名であるが、ある意味ペンネームというのも偽名である。支払いの都合で本名も聞いていたから、そちらのほうをぶちまけてやろうかとも思ったが、ぐっと堪えた。
「えっと、その作家のお名前は――」
雪深い妻有郷という街の、さらに市街地からは峠をひとつ越えた先にある集落。道の駅が出てきたら、ぜひともまずはそこに寄って、豆大福に手挽きのコーヒーで一服して欲しい。行楽シーズンになると、あっという間に豆大福は売り切れてしまうから、もしその地を訪れるのであれば、わざとシーズンを外したほうがいいだろう。一応、観光地ということもあり、シーズン中は非常に混み合うし、豆大福も午前中には売り切れてしまう。ただ、それに合わせてお店にも向かっても、そもそもやっていない可能性がある。この作品のモデルとなった彼女は、現在高校3年生となっており、昼間は高校に通っているだろうから。
シーズンを外して、可能な限り夕方近くに道の駅で一服したら、国道を挟んで道の駅の真反対にある集落へ入る。道が二手に分かれているが、脇に入る道は避けて道なりに進めばいい。本当にこんなところに商店があるのか――と不安になるほど、穏やかな光景が広がるが、心配することはない。誰もが同じような不安を抱くことだろうから。それほどまでに、あの辺りは長閑でゆっくりと時間が流れている。
目印は郵便局だ。看板のデザインはきっと全国共通であろうし、住宅街に突然現れるから、誰にでも見つけることができるだろう。郵便局を通過したら、左手のほうへと注目。しばらく行くと猫屋敷古物商店の看板が見えるはずだ。そこで降りてしまいたくなる衝動を抑えて、その先にある集会所の駐車場に車を停めよう。
そこから先は運任せ。運が良ければ店が開いているだろうし、彼女が出迎えてくれることだろう。ただ、品物を持ち込むのであれば、本当にいわくのあるものでなければならない。そうでなければ、嘘は簡単に見破られ、安く買い叩かれてしまうことだろう。まぁ、彼女に会うことが目的なら、それはそれで構わないが。
――猫屋敷古物商店。店を開ける日はもちろんのこと、営業時間も全て気まぐれの古物商店。その店は、今日も日本のどこかで、新たないわくを待ち望んでいることであろう。
【猫屋敷古物商店の事件台帳 ―完―】
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説

【完結】共生
ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。
ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。
隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる