猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【エピローグ】

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「まぁ、試されたのだと思います。本当に単なる古物商が、いわくを解き明かす過程で事件を解決してしまうのか。その辺りを探るために今回の依頼をしたのでしょう。しっかりと査定手数料はいただきましたので、それが創作であろうと関係ありませんが――。むしろ、創作であるほうが良いです。誰も傷ついていなければ、死んでもいないわけですから」

 千早はそこで言葉を区切ると葛切りに手を伸ばす。いまだに魂が抜けている一里之に向かって「この時期はすぐにぬるくなりますから、冷たいうちにどうぞ」と麦茶を進める。一里之は一気にそれを飲み干すと酔っ払いのような声を漏らす。気分はヤケ酒といったところか。

「しかし、物好きがいたものですねぇ。その、査定手数料だって決してお安くはないでしょう? それを支払ってまで、どうして試すような真似を……」

 これまで何度となく査定手数料を払ってきた身分の班目からすれば、わざわざ事件をでっち上げてまで千早に事件を依頼するのは物好きとしか思えないのであろう。実際、しっかりといただくものはいただいた。査定額のおおよそ半額――などという生ぬるいことはせずに、しっかりとそれ相応の金額を請求し、店の口座に入金してもらう形をとった。すると、竹藤――という偽名を使ってまで接触してきた作家とやらは、入金の報告をするのと一緒に、おそらく真の目的であろうことを切り出してきたのだった。

「――ここをモデルにした作品を書きたいそうです。ホームページで店の存在を知ったのでしょうが、古物商が事件を解決する設定が気に入ったらしく、可能な限りリアリティーを追求したいとのことでして」

 偽名を使い、創作で事件をでっち上げてまで査定を依頼してきた作家の目的は、どうやらこの猫屋敷古物商店をモデルにした作品を書くためらしい。差し支えなければ、これまで携わってきた事件の中で面白いものがあれば教えて欲しいとまで来たもんだ。その連絡をもらった時は呆れてしまって溜め息しか出なかった。

「ほぅ、この店をモデルにした作品ですかぁ。となると、もしかすると私なんかも――いいや、それはあまりよろしくありませんねぇ。私はそんなつもりはないのですが、見方によっては毎度私がいわくの品を持ち込むという理由をつけて、この店に事件の解決をお願いしているみたいになってしまいますから」

 みたいになってしまう――ではなく、実際そうである。それは両者の間で暗黙の了解となっているのだが、どうやら正式に認めたくはないらしい。
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