猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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「この度のいわく、もし本当に事件が起きていたのだとしたら、フロッピーディスクという希少な媒体ということもあり、それなりの値がついたでしょう。しかしながら、このいわくは人為的に作られたものであり、またその意図も明確になってはいません。よって、お値段をつけるとするのであれば――」

 千早は班目に伝えつつ、スマートフォンへのメールを待つ。残念ながら竹藤からのレスポンスはなし。依頼主を差し置いて話を進めるのは申しわけないように思えるのだが、口を開いた以上、このままやらせてもらうしかない。

「――金拾円とさせていただきます」

 元より作られたいわくであるがゆえに、正直なところ価値もへったくれもない。ただ、手数料を頂戴する手前、とりあえず値段はつけなければならない。フロッピーディスクという、この時代には珍しい媒体そのものの価値を考えれば、妥当な値段だと思う。むしろ安いくらいなのであろうが、品物自体の目利きというものは専門にしていないため、勘弁して欲しい。

 まだレスポンスはないものの、同じ内容を打ち込み、ついでに査定手数料のことも付け加えて竹藤へとメールを送る。一応、査定に取りかかる前に査定手数料の件は話してあるし、まず払ってもらえるとは思うのだが。

「それにしても……何がしたかったのでしょうね? わざわざ自分が創作した事件を、これまたわざわざフロッピーディスクの中に落とし込んで依頼してくるなんて」

 班目が漏らしたのと同様、どうにも解せないのはその辺りである。いつも通りに査定をしたつもりではいるが、いざ蓋を開けてみたら、なんだか試されたような気分である。

「さぁ――その辺りはご本人に聞いてみなければ、なんとも言えませんね」

 千早が小さく溜め息を漏らすと、班目が妙に静かになった外へと視線をやる。つられて外のほうへと視線をやると、いつしか雨はやんでいた。まだ空は暗いものの、やはり通り雨というやつだったらしい。

「や、これはちょうど良い。いやいや、中々に有意義な雨宿りでした。それでは、私はそろそろ――」

 雨がやみ、そして千早の査定に立ち会えた班目は、立ち上がると満足げな笑みを浮かべる。

「はい、またのご来店をお待ちしております」

 千早も立ち上がって班目を戸口まで見送る。班目は改めて「それではまた――」と頭を下げ、足早に集会所のほうへと駆けていった。まるでそれを見計らっていたかのように雲の切れ目から太陽が顔を覗かせる。

 ――見上げると、そこには見事なまでの虹が架かっていた。
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