猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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 班目の言う通り、今回の事件の犯人は田戸である。状況的な証拠や、また物的な証拠からも、彼が犯人だとしか思えない。

「はい。田戸さんは通訳士でした。通訳士というと、ぱっと海外の言葉の通訳というイメージが湧きますけど、手話による通訳だって世の中には必要とされています。おそらく、田戸さんは主に手話で通訳をするお仕事をしていたのではないでしょうか。だからこそ、下宿先にいた飯山さんと竹藤さんとも、なんら不自由なく意思疎通をすることができたのです」

 あらゆる面から見ても田戸が犯人で間違いない。もう、これまでの情報だけでも田戸が犯人だと断定しても構わないのであるが、駄目押しとばかりに千早は決定的な証拠をあげる。

「ちなみに、先ほどの話にも出てきましたど、犯人と被害者との間で争った形跡が残されていました。もちろん、争った時にそれなりの音が出たと思います。けれども――犯人はすぐに部屋を立ち去っていません。これもまた、田戸さんが犯人だとする証拠になると思います」

 千早が続いて着目したのは、事件の概要だ。飯山と竹藤の耳が聞こえなかったと明らかになった今こそ、そこに田戸が犯人だとする決定的な証拠が残っている。

「簡単にまとめられた概要によると、犯人は被害者を殺害した後、部屋の中を物色しています。これこそ、田戸さんが犯人である決定打とも言えます。班目様、もし班目様が田戸さんだったとして、被害者を殺害した後に部屋の中を物色することができますか?」

 千早から投げかけられた問いかけに、ほんの少しばかり考えてから班目は言う。

「物色――することはできますねぇ。だって、飯山さんと竹藤さんは耳が聞こえなかったわけで、どれだけ大家と争ったところで異変には気づかないでしょう? ならば、大家を殺害した後に部屋を物色する余裕もあったのではないでしょうか? 何度も外経由で部屋を往復するのも非効率ですし」

 その決定打を口にしておきながら、どうしてこの事実に気づかないのか。すっとぼけた様子の班目に対して小さく溜め息をひとつ。

「では、竹藤さんが犯人だったとして同じような行動を取ったでしょうか?」

 田戸と竹藤の違いは、耳が聞こえるか否かという点のみ。たったこれだけではあるが、それで全てが明確なものとなるのだ。

「いや……いくら耳が聞こえなくとも、大家と争ったとなれば、音を立ててしまった可能性を考えるでしょう。それに、耳が聞こえないがゆえに、どれだけの音を立てたかも分からない。下手をすると同じ下宿人の田戸さんに音を聞かれ、彼が駆けつけるかもしれないと考える――あぁ、呑気に部屋の中を物色できたのは、物音で駆けつける人間がいないと分かっていたからってことですか」
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