猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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 下宿人達は、全員耳が聞こえないというわけではない。ただ唯一の人物は耳が聞こえていたからこそ、小説の賞が発表される際に同席することができたのだから。そして、同席していた人物は――。

「その人物こそが犯人だから――ということですか。耳が聞こえていたのならば、大家の部屋から争う音が聞こえた際に駆けつけることもできたはず。でも、その人物は大家の部屋に駆けつけることはせず、翌日の朝になってから大家の遺体が発見された。それどころか、その人物は嘘までついた。それも、飯山さんと竹藤さんの耳が聞こえないからこそ通用する嘘を。なによりも、この矛盾をした嘘をついた時点で、何かしらのやましいことがあったのは間違いないでしょう」

 フロッピーディスクに残された情報だけでは足らず、その辺りは少しばかり想像力を働かさねばならない。ある人物は明らかな嘘をついた。では、どうして嘘をつかねばならなかったのか。その理由は――その人物こそが犯人だったからということになるのではないだろうか。

「はい。そもそも、竹藤さんも廊下が軋むことを知らなかった可能性が高いです。飯山さんと竹藤さんは腐れ縁であり、気の知れた仲です。もし、廊下が軋む事実を竹藤さんが知っていたのだとすれば、それは自然と飯山さんにも伝わっていたはずです。しかし、飯山さんはそれを知らなかった。それはすなわち、竹藤さんもまた知らなかったということになるのだと思います」

 千早はそこで言葉を区切ると、竹藤にメールを返す。

 ――ご協力ありがとうございます。おかげさまで、本日中には査定が終わりそうです。

「飯山さんと竹藤さんは廊下が軋むことを知らなかった。だから、もし大家を殺害しようとするのであれば、わざわざ雨の降るなか外に出て、窓から大家の部屋に侵入するなんてことはしない。廊下を経由して大家の部屋に向かうはずなんです。でも、犯人はわざわざ外を経由して大家の部屋に向かった。下手をすれば外を経由したほうが、大家に気づかれてしまうかもしれないのにです。でも、それは犯人が知っていたからなんです。廊下を経由するほうが、外を経由するよりも音を立ててしまうと――それこそ、大家に確実に気づかれてしまうと。だからこそ、犯人は外を経由して大家の部屋に向かわねばならなかった。ここまで言えば、もう犯人はお分かりですね?」

 千早のオンステージはそろそろクライマックス。観客である班目の一言で、きっと幕を閉じることだろう。

「――飯山さんと竹藤さんは耳が聞こえなかった。ならば、下宿人のなかで耳が聞こえた人物は1人しかいません。なるほど、この事件の犯人は田戸だったということですか」
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