猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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「地震のせいで廊下が軋むようになってしまっていた。そのせいで、廊下を誰かが歩くたびに大きな音が出るようになった――だからこそ、その頃から夜間の外出が禁止になったのだと思います」

 大家の取り決めは、飯山の書いた文章だと、どうしても自分本位のようなものに思えてしまうが、実のところそうでもない。大家が夜間の外出を禁止したのには、それなりの理由があったわけだ。

「ちなみに、飯山さんは大家のことを音に敏感だと書いていますが、実際のところは違うのだと思います。テレビの音や足音がうるさいと飯山さんに文句を言ったのも、おそらく本当にうるさかったからなのでしょう。なにせ、飯山さんは自分の足音の音量がどれだけなのか、またテレビの音量がどれだけの大きさなのか――分からなかったのですから」

 千早はそこで言葉を区切ると、改めてスマートフォンに視線を落とす。いまだに竹藤からの返信はない。一応、返事が欲しいところであるが、しかし最悪返信がなくとも答えは出せるから、そこまで問題視することでもないだろう。

「地震の影響で廊下が軋むようになってしまっていた。それこそ、犯人が外を経由しなければならないほどの音を立てたってわけですか。廊下を通れば大家に足音で必ず気づかれてしまう。ならば、まだ外を経由したほうがマシだったということですね」

 感嘆混じりの班目の溜め息に頷く千早。そう、犯人が外を経由した理由はシンプル。廊下がえらく軋んでしまうためだったのだ。大家が気づいてしまうほどの音を立てるようであるし、だからこそ犯人は外を経由しようと考えた。

「おっしゃる通りです。そして、ここまで判明すれば、もう犯人も分かったようなものです」

 飯山、竹藤、田戸。この3人のうち、一体誰が犯人なのか。いきなり犯人を指摘してやっても構わないのであるが、ここはあえて消去法で犯人を絞り込むことにする。

「まず、飯山さんは犯人から外れます。書き残された日記から察するに、飯山さんはそもそもウグイスが鳴くことを知らなかったようです。つまり、地震が起きた以降、廊下がえらく軋むようになったという事実を知らなかった。ならば、廊下が軋むからという理由で、外をわざわざ経由するということもしません。だって、廊下が軋むことを知らなかったのですから。もし飯山さんが犯人ならば、廊下を経由して大家の部屋に向かったはずなんです」

 初っ端に犯人から除外されるのは、廊下が軋むことを自体を知らなかった飯山だ。もし飯山が犯人ならば、外を経由するという選択肢は選ばなかったはず。いや、思いつきもしなかっただろう。素直に廊下経由で大家の部屋に向かったはずだ。
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