猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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「そこで重要になってくるのが――ウグイスなんです。これこそが、犯人が誰なのかを明確にする鍵となります」

 果たしてウグイスの正体とは何なのか。千早は、その状態を自分の知識と照らし合わせ、とっさにウグイスと例えた。しかし、意図的に作り出されるそれとは違い、今回の事件に関しては偶然であると言ってもいい。その偶然こそが、犯人とそうではない人間の明暗を分けるのだ。

「――ところで、結局のところウグイスはなんの比喩なのですか?」

 ウグイスは千早が引き合いに出した比喩でしかない。もちろん、本物のウグイスを指しているわけでもない。ある事柄をそう呼んだだけ。

「飯山さんの日記に、この下宿に住み始めてからすぐに、わりかし大きめの地震があったという記述があります。そして、その地震のせいで廊下の一部が大きく沈むようになってしまったとも書いてあったはずです。くわえて、外出禁止令が出たのも、その頃だったとのこと――。これらのことをかんがみると、あるひとつの事実が推測できます。ちなみに班目様、鶯張うぐいすばりの廊下というものをご存知ですか?」

 あまりもったいぶるのも班目に申しわけない。だから、一気に真相へと迫ったつもりだったのであるが、班目は首を小さく傾げる。

「はて、聞いたことはあるのですが――なんでしたっけ?」

 どうやら、そこから説明しなければならないようだ。班目が鶯張りの廊下のことを知っていれば、なぜ千早が比喩にウグイスを出してきたのか一発で分かっただろうに。

「もっとも有名なのは京都の二条城でしょうか。お城以外だと、同じく京都の大覚寺、等持とうじ院、観智かんち院、知恩ちおん院などが有名ですね。これらの建造物の廊下は鶯張りと呼ばれていて、歩くとウグイスの鳴き声のような音がするのです。諸説あるのですが、構造から考えて意図的に音が鳴るように造られています。ここまで言えば――班目様のことです。もうお分りでしょう?」

 別に班目に花を持たせるというわけではないが、ウグイスという例えがあまり良くなかったこともあり、あえて答えまでは言わずに班目へと放り投げる千早。パスをうまく受け取った班目は、ここぞとばかりにシュートを決める。

「つまり、下宿先の廊下は、大きめの地震が起きた際にきしむようになった。しかも、その軋む音は大家が耳障りに感じるほど大きなものだった――ということですか」

 班目が思った通りのシュートを決めたことを見届けてから、千早は「はい。その通りです」と答えた。
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