猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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 小説家を目指していた飯山は、賞の発表の際には下宿先の友人に同席をしてもらっていた。1人では発表の場に立ち会えないほど臆病なのかと疑ったが、それは千早の早とちり。明確な理由があったのだ。

「ネットで発表される際は同席を断った。でも、それ以外の時は同席する人間が必要――。あぁ、なるほど。飯山さん1人だと、例え受賞していたとしても、それ自体に気づくことができないということですか」

 賞が発表される際、飯山が下宿先の友人に同席してもらっていた理由。それは、どんな方法で受賞者のところに連絡が来るかを考えれば自ずと分かる。しかも、時代は今からおおよそ20年前。メールという概念も定着していなかった時代だ。

「その通りです。もし仮に受賞していたとしても、その結果を報せる電話に飯山さんは出ることができなかった。今から20年前ともなれば、さすがに黒電話ではなくナンバーディスプレイ機能のついた電話機でしょうが、仮にそれで電話がかかってきたことが分かっても、飯山さんは受話器を通して出版社の方と意思疎通するのが難しい。相手が何を言っているのか分からないのですから当然です。だから、飯山さんは代わりに出版社の方と話してくれる人間――下宿先の友人に同席してもらわねばならなかった。ネットで結果が発表される際は、自分の目で確認することができるわけですから、下宿人にも同席してもらわずに済んだのです」

 飯山は耳が聞こえなかった。それを証明する証拠が、フロッピーディスクには詰め込まれていた。だから千早は思った。これはもしかすると、告発だったのかもしれないと。

「あと、飯山さんは何でも目で――視覚でまず物事を確認しようとする癖があります。冒頭に出てくる鳩時計……予定の時間がくれば音で分かるだろうに、飯山さんはわざわざ予定の時間になることを視覚で確認している。朝食を作る際も、パンを焼く際のタイマーを視覚的に捉えています。極めつけは大家の部屋を訪れた時。先に田戸さんが部屋に飛び込み、何が起きたのか飯山さんが理解したのは、やはり自分の目で倒れた大家を確認した瞬間でした。これらも、飯山さんがろうあ者であることを物語っていたのではないでしょうか」

 千早の言葉に「なるほどぉ」と唸ると、何かに気づいたのか、ふと首を傾げた。

「さて、飯山さんの耳が聞こえなかった――という事実が明らかになったとして……それが事件とどう関係してくるのでしょう?」

 飯山がろうあ者だったという事実と、大家が殺害された事件。それを結び付けるためには、もうひとつの事実が必要になるのだ。それは――ウグイスの正体だ。
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