猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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「ですが、どうして飯山さんは【オノマトペ】を使わなかったのでしょうか。店主さんのお話を聞く限り、無意識に口にしてしまうほど、私達の生活に浸透しているのでしょう? だったら意識して書きでもしない限り、少なからず【オノマトペ】が入るはずだと思うのですが」

 まるで模範例のごとく、千早が欲しかった疑問をぶつけてきてくれる班目。ここですかさず次のポイントに話題を切り替えた。

「そこで最後のポイント――なぜウグイスは鳴かなかったのかということになります」

 この表現に関しては、言った後になって分かりにくい例えだったのではないかと思っている。たまたま、ある事柄から連想したものなのだが、真相を知らない班目からすれば、それが例え比喩であったとしても、わけが分からないことだろう。ただ、一度出してしまった表現だから、今さら引っ込めることはできなかった。

「ウグイスって確か【ホーホケキョ】と鳴く鳥ですよね」

 よくホトトギスと混同されがちなのであるが、ウグイスの鳴き声はそれで合っている。ただ、今回の事件においては別にウグイスが関与しているわけではないし、実際にウグイスが鳴いたとか、そういう話ではない。やはり、例えとして引き合いに出すには、少し分かりにくかったようだ。

「えぇ、よくご存知で。まぁ、ごくごく一般的には【ホーホケキョ】と鳴きますし、それは誰でも知っています。けれども、このウグイスが鳴く鳥であることを知らない人がいたとしたら――どんな方だと思います?」

 ウグイスはあくまでも例えなのであるが、それが余計にこんがらがってしまうのか、班目はうなりながら首を傾げる。千早はもう少し質問を噛み砕いた。

「ウグイスは鳴く鳥である――とか、その鳴き声は【ホーホケキョ】である――とか、そのような事前知識を一切持たずに、初めてウグイスを見たとして、その鳥が鳴く鳥か否かを判別することができない人……と言ったほうが分かりやすいかもしれません。もちろん、その本人の前でウグイスは何度も鳴いていたという前提でお考えください」

 その噛み砕き方が良かったのか、班目は「まさか……」と呟きながらパソコンのほうへと視線やり、しばらく飯山の書いた文章を眺める。ほどなくして「あっ」と声を上げると、嬉々として千早のほうへと視線を向けてきた。どうやら答えが見えたらしい。

「つまり、飯山さんはだったということですか」
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