猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

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「先ほど、班目様はこうおっしゃいましたよね? 雨がザーザー降ってきた――と。飯山さんの文章に堅苦しさや回りくどさを感じるのは、まさしくこれ……【オノマトペ】が使用されていないからなんです」

 飯山の文章から欠落してしまっていた表現。それこそが【オノマトペ】と呼ばれるものだ。名称だけを聞くと首を傾げてしまう人もいるだろうが、ほとんどの人が、ほぼ無意識に使っていると言っても過言ではない表現法である。

「あの――【オノマトペ】って?」

 班目もまた、名称を聞いただけではピンとこなかったのであろう。やや苦笑いを浮かべながら問うてくる。

「俗に擬態語、擬声語と呼ばれる表現法です。班目様は雨が降ってきた様子を【ザーザー】という擬声語で表現されました。この表現法というのは実に便利で、それだけで外はかなり強めの雨が降ってきたものだと分かります。そして、私達の日常には、この【オノマトペ】が当たり前のように使われています。例えば、犬の鳴き声を【ワンワン】と表現するのもそうですし、鶏の鳴き声を【コケコッコー】と表現するのもそうです。でも、海外になると犬の鳴き声は【バウワウ】と表現されますし、鶏の鳴き声は【クックドゥードゥルドゥー】と表現されます。同じ事柄なのに国によって表現法が異なるのは、それぞれの聞こえ方による――なんて話もあります」

 班目は何かを思い立ったのか、今度はようやくカウンターのほうへと回ってきて「失礼」とパソコンのキーボードを叩いた。おそらく、彼なりの確認作業に入ったのであろう。

「擬声語は音をそのまま表現として用いた表現法で、擬態語は物事の状態を感覚的に音を用いて表現します。例えば【ふんわり】とか【きらきら】とか――実際にそんな音なんて存在しないけど、聞いただけでどんなことを表現しているのか分かるものが擬態語ですね。そして飯山さんの文章なのですが……この【オノマトペ】が全く使われていないのです」

 飯山の文章が妙に堅苦しく思えたのは、直接的なものはもちろんのこと、感覚的なものも含めて【オノマトペ】が使われていなかったからなのだ。それ単体で状況を伝えることのできる【オノマトペ】というのは大切なものであり、それがあるのとないのとでは大きく差が出てくる。

「なるほど――その【オノマトペ】を使ってしまえば簡単に表現できることも、いちいち状況説明をするような文章になってしまうため、なんだか回りくどくて堅苦しい文章になってしまっていたのですね」

 飯山の文章を見直しながら呟く班目に千早は頷いた。
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