猫屋敷古物商店の事件台帳

査定４ なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】

査定４ なぜウグイスは鳴かなかったのか【解答編】1

【1】

　――竹藤様。ご依頼の件ですが、そろそろお値段が見えてまいりました。そこで、ひとつだけ確認したいことがございます。

　スマートフォンを操作してメールを作成すると、依頼主である竹藤に対して、確認したい事柄を書き込んでメール送信。レスポンスに関しては、そこまで期待はしていない。今となっては、それも仕方のないことなのだと思う。

「今回の査定のポイントは、大きくわけて３つあります」

　依頼主の下宿先の大家が殺害された事件。状況から考えても、大家を殺害することができたのは、実際に逮捕されてしまった飯山、依頼主である竹藤、そして田戸の３人だけ。泥のついた靴が部屋から発見されたことにより飯山が逮捕されてしまったようだが、それくらいの細工ならば、竹藤と田戸には可能だったことだろう。それぞれの部屋に鍵はつけられておらず、24時間出入りが可能だったのだから。それは大家の部屋とて例外ではない。

「ひとつめのポイントは――なぜ犯人はわざわざ外を経由して大家の部屋に向かったのかです。これは、最初からずっと引っ掛かりを覚えていた部分でもあります。この一見して理解できないような犯人の行動ですが、実はれっきとした理由があった。明確な根拠があって犯人は外から大家の部屋へと向かったのです」

　――それはなぜなのか。という部分に関しては明らかにせず、人差し指に続いて中指を立てる千早。

「ふたつめのポイントは、飯山さんの異様に堅苦しい文章です。実はこれにも明確な理由があったのです。ある原因があったからこそ、私達は飯山さんの文章を堅苦しいと感じてしまった」

　大家が殺害された事件と、飯山の文章が堅苦しいという事象。どう考えても結びつかないように思えてしまうが、実は密接な関係にあり、今回の事件を紐解く鍵ともなっているのだ。班目が口を挟みたそうにしながら我慢しているのが伺えた。

「そしてみっつめのポイント。なぜ、ウグイスは鳴かなかったのか――」

　きっと、あまりにも突拍子のないことを口にしたものだから、我慢ならなくなったのであろう。申しわけなさそうに手を挙げながらも「待った。ま、待った！」と口を開く班目。彼のほうへと視線をやるとこう続けた。

「ざっとフロッピーディスクの内容を確認させてもらいましたけど、ウグイスなんて出てきましたっけ？」

　班目の反応が予想以上に挙動不審だったため、思わず笑みを漏らしながら「比喩です。比喩」と千早。