猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【問題編】

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「もしかすると外部の人間の仕業に見せかけようとしたのではないですか? 雨が降っていたおかげで、自然と足跡も残せるでしょうし」

 まだ事件の全てを把握できていないのであろう。班目の言葉に千早は首を横に振る。

「それならば、敷地外へと向かって足跡が続いていなければなりません。しかし、足跡は下宿人達の部屋と大家の部屋を往復しているだけ。しかも、下宿人達の部屋のほうの足跡は、誰の部屋に続いているのか分からなくするためか、あたり一帯が踏み荒らされていたようです」

 千早の言葉に相槌を打ちながら、真剣にパソコンを見つめる班目。フロッピーディスクがデータを読み込む際の音が辺りに響く。起動中も冷却ファンのようなものが常に回っているようだし、とにかく旧式のパソコンはうるさかった。

「なるほど――それぞれの下宿人が部屋に靴を用意していたのは、大家が夜間の外出を禁止したからということですか。それの抜け道として、外出する際は窓から外に出るという暗黙のルールが生まれたと。ということは、下宿人達の部屋には外に出るための靴が少なくとも1足ずつはあったということですね。外を経由して大家の部屋に向かう環境は、3人ともに整っていたということか」

 ある程度のことを把握したからであろう。パソコンから離れると、自分の席へと戻り、残してあった水羊羹を平らげてしまう班目。シメと言わんばかりにお茶まで飲み干す。

「えぇ、そして飯山さんの部屋から泥にまみれた靴が発見された――。詳しいことは書かれていませんが、これが決め手になって飯山さんは逮捕されてしまったのかもしれません。もしかすると、他の誰かが飯山さんに罪をなすりつけるために靴を拝借し、それを元に戻したという可能性もあるのに」

 果たして決め手は泥にまみれた靴だったのか。その辺りのことは詳しく書かれていないため、想像で補わなければならないようだが、流れから察するのであれば、おそらくそれが決定打となったのであろう。

「確かに、それだけが決め手となったわけではないでしょうけど、いかんせん昔の話ですし、絶対にあり得ないことでもありません。飯山さんが大家のことを快く思っていなかったことも事実でしょうし、しっかりと動機はあります」

 情報はフロッピーディスクに残されたものだけ。そしてフロッピーディスクの査定を正確に行うためには、中に残されている奇っ怪な事件のことをはっきりとさせなければならない。もちろん、外面だけを見て値段を決めるのは簡単だ。しかし、それだけはしたくない。全てをはっきりとさせて、いわくに見合った値付けをしなければならないのだ。一応、古物商としてのプライドがあった。
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