199 / 226
査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【問題編】
17
しおりを挟む
「もしかすると外部の人間の仕業に見せかけようとしたのではないですか? 雨が降っていたおかげで、自然と足跡も残せるでしょうし」
まだ事件の全てを把握できていないのであろう。班目の言葉に千早は首を横に振る。
「それならば、敷地外へと向かって足跡が続いていなければなりません。しかし、足跡は下宿人達の部屋と大家の部屋を往復しているだけ。しかも、下宿人達の部屋のほうの足跡は、誰の部屋に続いているのか分からなくするためか、あたり一帯が踏み荒らされていたようです」
千早の言葉に相槌を打ちながら、真剣にパソコンを見つめる班目。フロッピーディスクがデータを読み込む際の音が辺りに響く。起動中も冷却ファンのようなものが常に回っているようだし、とにかく旧式のパソコンはうるさかった。
「なるほど――それぞれの下宿人が部屋に靴を用意していたのは、大家が夜間の外出を禁止したからということですか。それの抜け道として、外出する際は窓から外に出るという暗黙のルールが生まれたと。ということは、下宿人達の部屋には外に出るための靴が少なくとも1足ずつはあったということですね。外を経由して大家の部屋に向かう環境は、3人ともに整っていたということか」
ある程度のことを把握したからであろう。パソコンから離れると、自分の席へと戻り、残してあった水羊羹を平らげてしまう班目。シメと言わんばかりにお茶まで飲み干す。
「えぇ、そして飯山さんの部屋から泥にまみれた靴が発見された――。詳しいことは書かれていませんが、これが決め手になって飯山さんは逮捕されてしまったのかもしれません。もしかすると、他の誰かが飯山さんに罪をなすりつけるために靴を拝借し、それを元に戻したという可能性もあるのに」
果たして決め手は泥にまみれた靴だったのか。その辺りのことは詳しく書かれていないため、想像で補わなければならないようだが、流れから察するのであれば、おそらくそれが決定打となったのであろう。
「確かに、それだけが決め手となったわけではないでしょうけど、いかんせん昔の話ですし、絶対にあり得ないことでもありません。飯山さんが大家のことを快く思っていなかったことも事実でしょうし、しっかりと動機はあります」
情報はフロッピーディスクに残されたものだけ。そしてフロッピーディスクの査定を正確に行うためには、中に残されている奇っ怪な事件のことをはっきりとさせなければならない。もちろん、外面だけを見て値段を決めるのは簡単だ。しかし、それだけはしたくない。全てをはっきりとさせて、いわくに見合った値付けをしなければならないのだ。一応、古物商としてのプライドがあった。
まだ事件の全てを把握できていないのであろう。班目の言葉に千早は首を横に振る。
「それならば、敷地外へと向かって足跡が続いていなければなりません。しかし、足跡は下宿人達の部屋と大家の部屋を往復しているだけ。しかも、下宿人達の部屋のほうの足跡は、誰の部屋に続いているのか分からなくするためか、あたり一帯が踏み荒らされていたようです」
千早の言葉に相槌を打ちながら、真剣にパソコンを見つめる班目。フロッピーディスクがデータを読み込む際の音が辺りに響く。起動中も冷却ファンのようなものが常に回っているようだし、とにかく旧式のパソコンはうるさかった。
「なるほど――それぞれの下宿人が部屋に靴を用意していたのは、大家が夜間の外出を禁止したからということですか。それの抜け道として、外出する際は窓から外に出るという暗黙のルールが生まれたと。ということは、下宿人達の部屋には外に出るための靴が少なくとも1足ずつはあったということですね。外を経由して大家の部屋に向かう環境は、3人ともに整っていたということか」
ある程度のことを把握したからであろう。パソコンから離れると、自分の席へと戻り、残してあった水羊羹を平らげてしまう班目。シメと言わんばかりにお茶まで飲み干す。
「えぇ、そして飯山さんの部屋から泥にまみれた靴が発見された――。詳しいことは書かれていませんが、これが決め手になって飯山さんは逮捕されてしまったのかもしれません。もしかすると、他の誰かが飯山さんに罪をなすりつけるために靴を拝借し、それを元に戻したという可能性もあるのに」
果たして決め手は泥にまみれた靴だったのか。その辺りのことは詳しく書かれていないため、想像で補わなければならないようだが、流れから察するのであれば、おそらくそれが決定打となったのであろう。
「確かに、それだけが決め手となったわけではないでしょうけど、いかんせん昔の話ですし、絶対にあり得ないことでもありません。飯山さんが大家のことを快く思っていなかったことも事実でしょうし、しっかりと動機はあります」
情報はフロッピーディスクに残されたものだけ。そしてフロッピーディスクの査定を正確に行うためには、中に残されている奇っ怪な事件のことをはっきりとさせなければならない。もちろん、外面だけを見て値段を決めるのは簡単だ。しかし、それだけはしたくない。全てをはっきりとさせて、いわくに見合った値付けをしなければならないのだ。一応、古物商としてのプライドがあった。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~
七瀬京
ミステリー
秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。
依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。
依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。
橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。
そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。
秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる