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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【問題編】

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 好みの味だったのか、一口を運んですぐに、水羊羹をもう一口運ぶ班目。

「もしかすると、あえて――という可能性もありますよ。レポートや論文に小説的な技法は必要ありませんし、ただ理路整然と情報が並べられていたほうが分かりやすいわけで」

 千早はそう言うとお茶を一口。確かに班目の言う通り、飯山の日記は全体的に堅苦しい印象を受ける。それがなぜなのかと問われると答えに苦しむのであるが、漠然とそのような印象があるのだ。

「そんなものですかねぇ。それで、査定はどんな感じの進捗しんちょく具合で?」

 本来ならば企業秘密――と言いたいところなのであるが、パソコンの調達をしてもらったのだし、こうして気にかけて店にまで足を運んでくれたのだ。無下にするわけにもいかないだろう。

「まだまだ――といったところです。フロッピーディスクに残されていた事件には、解せない部分がありますから」

 千早の言葉を受けてか、班目は改めてカウンターのほうへと身を乗り出し、パソコンを操作する。

「あ、事件の概要なんかは流し読みで把握しますので、どうぞ続けてください」

 いっそのことカウンターの中に回り込めばいいというのに、実に辛そうな体勢でパソコンのモニターを眺める班目。一応、客としての線引きをしているのだろうが、果たしてどこまで体力がもつことか。

「私がこの事件でもっとも引っかりを覚えているのは――ということです。元々離れを改修した下宿。それぞれの部屋に鍵らしいものはついていないと記述されています。事実、飯山さんと田戸さんが大家を呼びに向かった際も、あっさりと部屋のドアは開きました。つまり、犯人はドアに鍵がかかっているから、外を経由して大家の部屋に向かったわけではないことになります」

 被害者である大家の部屋に鍵はかかっていなかった。ならば、わざわざ窓から外に出て大家の部屋に向かう必要などない。廊下を経由して向かえばいいのだ。千早は続ける。

「しかも、事件があった当時は台風が接近していたようですし、足跡に雨水が溜まる程度には雨が降っていたわけです。そんな悪天候の中――なぜ犯人は外から大家の部屋に向かおうと考えたのか。この辺りの意図が分からないのです」

 やはり体勢的に無理があったのか、班目は体勢を元に戻し「ちょっと失礼しますよ」と、カウンターの中に入ってきてパソコンの画面とにらめっこを再開する。そのついでとばかりに口を開いた。
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