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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【問題編】
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【3】
「単刀直入に言ってしまうと、過去の事件のことを掘り返すのは難しいですねぇ。しかも、所轄で起きた事件ではないとなると、なおさらです」
千早がフロッピーディスクの査定を始めてから数日。パソコンを用立てしてくれた班目が、店に顔を出すのは分かりきっていたことだった。今回は彼からの依頼ではないものの、事件のあらましはざっと話していただけに、単純に刑事としての血が騒いだのかもしれない。ならば、いっそのこと過去に起きた事件のことを詳しく調べることができないかと考えたのであるが、それはすぐさま否定されてしまった。
「――そうですか。それなら仕方がありません」
「すいませんねぇ。警察でも昨今コンプライアンスというものがうるさくて。色々と面倒なんですよ。役に立てずにすいません」
証拠品を平気で持ち出し、千早に査定させているというのに、どの口がコンプライアンスなんて言葉を言うのだろうか。しかし、無理だと言うのならば仕方がない。手元にある情報だけで事件を整理するしかないだろう。
今日も外ではセミが懸命に鳴いている。すっかりクールビズになった班目は、ネクタイを外し、胸元を第2ボタンまで開けていた。一方、今日の千早は学校の制服姿である。特に理由はない――というか、昨年まではこれがデフォルトだった。
「せっかくですから、冷たいお茶でも飲んでいかれませんか? 今回の査定に関して、班目様の意見も少し聞きたいので」
こちらから呼び立てたわけではないが、わざわざフロッピーディスクを読み込めるパソコンを用意してくれたうえに、進捗状況が気になって店にやってきてくれたのだ。お茶くらい出してやってもバチは当たらない。千早はカウンターの奥から母屋のほうに引っ込むと、冷たい麦茶をグラスに注ぎ、ついでに水羊羹を冷蔵庫から取り出す。小皿にそれらしく盛り付けると、自分と班目の分を盆に乗せて店へと戻った。
「や、これはこれはすいませんねぇ」
班目はカウンターのほうへと身を乗り出し、フロッピーディスクの中身に目を通していた。麦茶と水羊羹を出してやると、班目は自分の指定席へと戻り、水羊羹へと早速手を伸ばす。水羊羹くらいならば出してやるが、豆大福だけは絶対に彼には渡せない。
「ちょっとばかり、飯山さんの日記みたいなものに目を通してみたのですが――なるほど、小説家の素質はなさそうですねぇ。具体的に説明するのは難しいのですが、文章が妙に堅苦しいというか、遠回しというか……なんか、うまく言えないんですけど、分かりにくいような気がしますね」
「単刀直入に言ってしまうと、過去の事件のことを掘り返すのは難しいですねぇ。しかも、所轄で起きた事件ではないとなると、なおさらです」
千早がフロッピーディスクの査定を始めてから数日。パソコンを用立てしてくれた班目が、店に顔を出すのは分かりきっていたことだった。今回は彼からの依頼ではないものの、事件のあらましはざっと話していただけに、単純に刑事としての血が騒いだのかもしれない。ならば、いっそのこと過去に起きた事件のことを詳しく調べることができないかと考えたのであるが、それはすぐさま否定されてしまった。
「――そうですか。それなら仕方がありません」
「すいませんねぇ。警察でも昨今コンプライアンスというものがうるさくて。色々と面倒なんですよ。役に立てずにすいません」
証拠品を平気で持ち出し、千早に査定させているというのに、どの口がコンプライアンスなんて言葉を言うのだろうか。しかし、無理だと言うのならば仕方がない。手元にある情報だけで事件を整理するしかないだろう。
今日も外ではセミが懸命に鳴いている。すっかりクールビズになった班目は、ネクタイを外し、胸元を第2ボタンまで開けていた。一方、今日の千早は学校の制服姿である。特に理由はない――というか、昨年まではこれがデフォルトだった。
「せっかくですから、冷たいお茶でも飲んでいかれませんか? 今回の査定に関して、班目様の意見も少し聞きたいので」
こちらから呼び立てたわけではないが、わざわざフロッピーディスクを読み込めるパソコンを用意してくれたうえに、進捗状況が気になって店にやってきてくれたのだ。お茶くらい出してやってもバチは当たらない。千早はカウンターの奥から母屋のほうに引っ込むと、冷たい麦茶をグラスに注ぎ、ついでに水羊羹を冷蔵庫から取り出す。小皿にそれらしく盛り付けると、自分と班目の分を盆に乗せて店へと戻った。
「や、これはこれはすいませんねぇ」
班目はカウンターのほうへと身を乗り出し、フロッピーディスクの中身に目を通していた。麦茶と水羊羹を出してやると、班目は自分の指定席へと戻り、水羊羹へと早速手を伸ばす。水羊羹くらいならば出してやるが、豆大福だけは絶対に彼には渡せない。
「ちょっとばかり、飯山さんの日記みたいなものに目を通してみたのですが――なるほど、小説家の素質はなさそうですねぇ。具体的に説明するのは難しいのですが、文章が妙に堅苦しいというか、遠回しというか……なんか、うまく言えないんですけど、分かりにくいような気がしますね」
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