猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
197 / 226
査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【問題編】

15

しおりを挟む
【3】

「単刀直入に言ってしまうと、過去の事件のことを掘り返すのは難しいですねぇ。しかも、所轄で起きた事件ではないとなると、なおさらです」

 千早がフロッピーディスクの査定を始めてから数日。パソコンを用立てしてくれた班目が、店に顔を出すのは分かりきっていたことだった。今回は彼からの依頼ではないものの、事件のあらましはざっと話していただけに、単純に刑事としての血が騒いだのかもしれない。ならば、いっそのこと過去に起きた事件のことを詳しく調べることができないかと考えたのであるが、それはすぐさま否定されてしまった。

「――そうですか。それなら仕方がありません」

「すいませんねぇ。警察でも昨今コンプライアンスというものがうるさくて。色々と面倒なんですよ。役に立てずにすいません」

 証拠品を平気で持ち出し、千早に査定させているというのに、どの口がコンプライアンスなんて言葉を言うのだろうか。しかし、無理だと言うのならば仕方がない。手元にある情報だけで事件を整理するしかないだろう。

 今日も外ではセミが懸命に鳴いている。すっかりクールビズになった班目は、ネクタイを外し、胸元を第2ボタンまで開けていた。一方、今日の千早は学校の制服姿である。特に理由はない――というか、昨年まではこれがデフォルトだった。

「せっかくですから、冷たいお茶でも飲んでいかれませんか? 今回の査定に関して、班目様の意見も少し聞きたいので」

 こちらから呼び立てたわけではないが、わざわざフロッピーディスクを読み込めるパソコンを用意してくれたうえに、進捗状況が気になって店にやってきてくれたのだ。お茶くらい出してやってもバチは当たらない。千早はカウンターの奥から母屋のほうに引っ込むと、冷たい麦茶をグラスに注ぎ、ついでに水羊羹みずようかんを冷蔵庫から取り出す。小皿にそれらしく盛り付けると、自分と班目の分を盆に乗せて店へと戻った。

「や、これはこれはすいませんねぇ」

 班目はカウンターのほうへと身を乗り出し、フロッピーディスクの中身に目を通していた。麦茶と水羊羹を出してやると、班目は自分の指定席へと戻り、水羊羹へと早速手を伸ばす。水羊羹くらいならば出してやるが、豆大福だけは絶対に彼には渡せない。

「ちょっとばかり、飯山さんの日記みたいなものに目を通してみたのですが――なるほど、小説家の素質はなさそうですねぇ。具体的に説明するのは難しいのですが、文章が妙に堅苦しいというか、遠回しというか……なんか、うまく言えないんですけど、分かりにくいような気がしますね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

処理中です...