猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【問題編】

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「おはよう」

 竹藤と田戸の両者と挨拶を交わすと、カップを棚から取り出してコーヒーを注ぐ。ついでにシュガーポットを棚から出すと、テーブルの上に置いた。私、竹藤、田戸はブラックコーヒーを好むが、しかし砂糖がないと文句を言うやつが若干名いる。もはや、それが誰であるかと話題に出すこと自体が馬鹿馬鹿しい。

「目玉焼きがいい具合の焼き加減だね。やはり、目玉焼きは半熟じゃないと」

 まるで子どものような笑顔を浮かべながら田戸は着席する。するといまだに寝ぼけているように見える竹藤が「俺は完熟がいいね。半熟は生食してるみたいで嫌い」と、寝癖のついた頭をかいた。

「文句があるなら食べなくても結構」

 コーヒーを配膳したついでに、竹藤の目の前にある皿を下げる仕草をする。竹藤は「冗談、冗談」と苦笑いを浮かべた。このやり取りは朝のルーティーンのようになっていた。

「そういえば……大家さんは?」

 朝のコーヒーを一口飲むと、田戸は辺りを見回す。大家は朝食の時間に妙に厳しく、下手をすれば朝食の準備をしている最中に台所にやってくることさえあった。これまで早めに来たことはあっても、遅れてやってくることなんてない。早めに食べてしまって部屋に戻ってくれれば、私達も楽しく食事ができるのだが。

「さぁ? 珍しく寝坊でもしたんじゃないか?」

 竹藤が首を傾げる。すると田戸が「彼に限ってそれはないな。昨日の夜は静かだったし、早めに寝たみたいだから」と肩をすくめた。こんなこと、今まで一度たりともなかったことだし、大家の性格を考えると呼びに行ったほうがいいだろう。自分が起きれなかったことを棚に上げて「起こしにこなかったお前が悪い」と、人のせいにするに違いない。ただでさえ新人賞のせいで気分が落ち込んでいるのに、そこに大家の身勝手な説教が加わったら堪ったものではない。どうせ、なにを言っているか良く分からない説教なのだから。

「ちょっと呼びに行ってくる」

 私の判断に、田戸が席から立ち上がった。

「僕も一緒に行こう」

 このような時に積極的に動いてくれるのは田戸のほうだ。新人賞の発表の際に同席してくれるのも彼である。竹藤は腐れ縁であるがゆえの馴れ合いか、このような時に気を遣ってなどくれない。

「私1人では、彼に話が通じるか不安だから、そうしてもらえると助かるよ」

 大きく溜め息を漏らす私に、田戸は苦虫を潰したかのような表情を浮かべながら「心配しなくとも、僕が相手でも話が通じない時は通じないさ。特に怒ってる時なんて、全く話が通じない」と皮肉を込めた。大家は私達全員から嫌われていた。少なくとも、私は彼のことが大嫌いだった。ただ、殺したいほど嫌いだったわけではない。
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