猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定4 なぜウグイスは鳴かなかったのか【プロローグ】

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 まず、これが私にとってひとつめのノストラダムスの大予言だった。アンゴルモアの大王だかなんだか知らないが、私の努力はまたしても空振りという結果に終わってしまったわけだ。しかしながら、良くも悪くも小説の公募に落ちるのはこれが初めてではない。すなわち、これだけではノストラダムスの大予言が的中した――などと決めつけるわけにはいかなかった。

 呆然としたまま過ごし、午後5時を少し過ぎた頃。私は肩を叩かれて振り返った。毎度のように勝手に部屋に入ってきたらしい。仕事から帰ってきたのであろう隣の部屋の住人である竹藤豊たけふじゆたかが立っていた。こいつとの関係は、それこそ腐れ縁というやつである。小学生の頃から、中学、高校まで一緒だ。挙げ句の果てに就職のために実家を離れたのも一緒であり、下宿先まで同じという超がつく腐れ縁だ。実家を離れる際、両者とも両親から猛反対を受けたが、それを振り切って家を出た。私達だってもう大人なのだ。親の助けがなくとも生きていける。

「結果はどうだった?」

 竹藤は嫌らしい笑みを浮かべている。今日が新人賞の結果発表であることは、当然ながら彼も知っている。懲りもせずに何度も公募に応募を続ける私を面白がっている節さえあった。私は「いつも通りだよ」と返す。このやり取りは、毎度のお約束のようなものになっている。いつか、このお約束がお約束ではなくなる日が来ることを願ってやまない。

「次があるさ、また頑張れ」

 竹藤はもう一度私の肩を叩くと、同情するかのような表情を浮かべる。このやり取りもまたいつも通りであり、竹藤には申しわけないが嘘っぽく見えてしまう。夢を諦めきれない私に、現実を見ろと説教してくる時がある竹藤だからこそ、素直に同情してくれているとは思えなかった。

「どうせ、また現実を見ろとか思ってるんだろ?」

 わざと眉間にしわを寄せる私。竹藤は「趣味でやるのならば物書きも悪くはない」と立ち上がる。そのまま冷蔵庫のほうへと向かうと、祝杯用に用意していた缶ビールを取り出す。自分の分と私の分。これも通過儀礼というべきか、いつものやり取りである。しっかりと竹藤の分のビールまで用意している辺り、私は根底部分ですでに小説家になるのを諦めているのかもしれない。

 私と竹藤はビールでささやかな乾杯をした。それは、次回頑張ろうという意味の乾杯なのか、それとも今回はお疲れ様という意味の乾杯なのか――ただ、分かっていることはひとつだけ。今日も竹藤はタダ酒を飲めたわけだ。まぁ、最近流行りの発泡酒というやつで、本物のビールとはまた違うのであるが。
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