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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【エピローグ】
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この店は、基本的にいわくのあるものしか買い取らない。ゆえに、店頭に並んでいる商品も、大なり小なり何かしらのいわくのあるものばかりだ。しかしながら、スキップができなくなる呪いとは、これいかに。
「気にしてるのに。絵心がないこと、気にしてるのに――」
落ち着いており、常に冷静で、だからこそ大人びて見える千早であるが、ぶつぶつと呟く姿からは、普段の面影がまるで見えない。
「ちょ、ちょっと待てよ猫屋敷」
片手で筆の柄を持ち、もう片方の手で筆の毛先をつまむ。一里之が止めに入るが、千早は顔を上げてフルフルと首を横に振った。しかも涙目でだ。
「まっ、待った! まさか店主さんが描いた絵だと思いませんでして! その、なかなか味があるといいますか、独特なセンスのある絵だと思いますよ!」
慌ててフォローに入る班目。もし呪いが本当ならば、二度とスキップができない体になってしまう。いや、別に大人になってからスキップなんざしたことはないし、別にスキップができないからといって日常生活に支障が出るわけでもない。しかしながら、いざできないということになってしまうと、なんだかモヤモヤとする。だって、これから死ぬまでずっとスキップができなくなるのだから。しかし、千早は聞く耳を持たない。
「気にしてるのに、気にしてるのに、気にしてるのに――」
千早の指先がぴくりと動く。
「ちょ、待てよ!」
とっさのことだったせいか、某トレンディードラマが流行った際の、某俳優のような台詞が見事に一致する班目と一里之。ぶつぶつと呟き続ける千早は、かっと目を見開いた。
――ほんの小さな音であったが、プツンという小気味の良い音が、妙に店内には響いたのだった。
後の話であるが、妻有郷の公園で遊んでいる子ども達に対して、高校生と壮年男性の2人組がスキップのやり方を教えて欲しいと声をかける、俗にいう声かけ事案が発生。
田舎ということもあり、子ども達の間では瞬く間に噂が広がり、やれスキップのやり方を教えないと殺されるだとか、しかし決してスキップをする姿を見られてはならないだとか、とんでもない尾びれがついて拡散され、その2人組は都市伝説にまで昇華したそうだ。
その2人組が何者なのかは明かせはしないが、それ以降、班目と一里之の間には妙な連帯感と親近感が生まれたことだけは間違いない。
――それは、男同士の友情が芽生えた瞬間でもあった。
【査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター ―完―】
「気にしてるのに。絵心がないこと、気にしてるのに――」
落ち着いており、常に冷静で、だからこそ大人びて見える千早であるが、ぶつぶつと呟く姿からは、普段の面影がまるで見えない。
「ちょ、ちょっと待てよ猫屋敷」
片手で筆の柄を持ち、もう片方の手で筆の毛先をつまむ。一里之が止めに入るが、千早は顔を上げてフルフルと首を横に振った。しかも涙目でだ。
「まっ、待った! まさか店主さんが描いた絵だと思いませんでして! その、なかなか味があるといいますか、独特なセンスのある絵だと思いますよ!」
慌ててフォローに入る班目。もし呪いが本当ならば、二度とスキップができない体になってしまう。いや、別に大人になってからスキップなんざしたことはないし、別にスキップができないからといって日常生活に支障が出るわけでもない。しかしながら、いざできないということになってしまうと、なんだかモヤモヤとする。だって、これから死ぬまでずっとスキップができなくなるのだから。しかし、千早は聞く耳を持たない。
「気にしてるのに、気にしてるのに、気にしてるのに――」
千早の指先がぴくりと動く。
「ちょ、待てよ!」
とっさのことだったせいか、某トレンディードラマが流行った際の、某俳優のような台詞が見事に一致する班目と一里之。ぶつぶつと呟き続ける千早は、かっと目を見開いた。
――ほんの小さな音であったが、プツンという小気味の良い音が、妙に店内には響いたのだった。
後の話であるが、妻有郷の公園で遊んでいる子ども達に対して、高校生と壮年男性の2人組がスキップのやり方を教えて欲しいと声をかける、俗にいう声かけ事案が発生。
田舎ということもあり、子ども達の間では瞬く間に噂が広がり、やれスキップのやり方を教えないと殺されるだとか、しかし決してスキップをする姿を見られてはならないだとか、とんでもない尾びれがついて拡散され、その2人組は都市伝説にまで昇華したそうだ。
その2人組が何者なのかは明かせはしないが、それ以降、班目と一里之の間には妙な連帯感と親近感が生まれたことだけは間違いない。
――それは、男同士の友情が芽生えた瞬間でもあった。
【査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター ―完―】
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