猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【エピローグ】

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「心頭滅却すれば火もまた涼しらしいから、ガソリンに火を点けてみた――。この動画を境にして、ラクレスは6人組から5人組へとなったようです。内容は、ガソリンを空き地に撒き散らして火を点けるという自殺行為でしかないようなものです。ガソリンは揮発性のもので、液体そのものが発火したりはしません。動画内でも、ガソリンに火を点けようとしましたが、結局のところ着火できなかったという形で締めくくられています。しかし……実際はそうではなかった」

 任意同行という形で、犯人は所轄の警察が引っ張った。もちろん、この所轄とは犯人の住所があるところの警察署ということになる。だから、まだ顔を見たことはないのだが、話によると頬に大きな火傷の跡があるらしい。その火傷の原因となったのが、どうやら件の動画のようなのだ。この辺りも、ラクレスの他メンバーからの証言により、裏付けが進んでいるそうだ。

「この企画――カネモトさんが企画したものだったらしいのですが、どうやらこの動画を撮影した際に【6人目のラクレス】である井之川は、火傷を負ってしまったようなんです。命に別状はありませんでしたが、顔に大きな火傷の跡を残してしまった。そんな状態でカメラの前に立つわけにもいかず、突然の引退という形で、彼は前線から身を引いたらしいです」

 班目の話を聞いていた千早が、小さく溜め息を漏らす。視聴数を稼ぎたいがゆえに、危険な行為へと手を出してしまう動画配信者は少なくない。時代が生み出した闇だといえよう。

「それで、井之川さんはカメラマンとして、裏方に回ったということですか――」

 逮捕された井之川の証言によると、引退した後も、その企画力を買われ、ラクレスの裏方として残留することにしたそうだ。なんでもカネモトが土下座をして頼み込んだらしい。カネモト自身も「あれを企画したのは自分だから」と、井之川の居場所を奪ってしまったことに罪悪感を抱いているようだった――少なくとも、その時はそう見えた。ラクレスのメンバーは口を揃えて、言葉尻を濁したそうだ。

「えぇ、カネモトの要請もあって、裏方としてラクレスに携わることになりました。でも――これらは全て、カネモトがそうなるように仕組んだことだったんです。わざと危険な企画を立て、井之川をカメラの前から引きずり降ろし、その企画力を利用してのし上がろうとした。事実、ラクレスの人気はうなぎのぼりで、特にリーダー格のカネモトには、多くのファンがつきました。それこそ、彼の思い通りにね」
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