猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【解答編】

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 合わせ鏡というものは、実際にやってみれば分かるのだが、延々と鏡の世界が広がっているように見えるものだ。遊園地などで鏡の迷路に迷い込んでしまった時のような感覚とでも例えようか。とにもかくにも、どちらを見ても鏡の世界が広がっているため、空間認識能力が錯覚を引き起こす。よって、少しくらい奥の鏡が前に出ていても気づかないのである。事実、動画越しで見ていた班目もまるで気づかなかったし、ラクレスのメンバーも全く気づいていなかったのだ。合わせ鏡という特殊な空間があってこそ、このトリックは成立したということか。

「ここまでお話しすれば、後は考えるまでもありません。エレベーターの中に身を隠した犯人は、最上階でマソンヌさんがカネモトさんを見送った後、動き出したエレベーターの中でカネモトさんを殺害しました。凶器は犯人が偽物の鏡の裏に隠れる際に、一緒に持ち込んだのでしょう。そして、カネモトさんを殺害した犯人は、そのまま再び偽物の鏡の裏に身を隠したのです」

 蓋を開けてみれば、なんとも単純なトリックだったのだ。偽物の鏡を用意し、それを奥側の鏡であると誤認させることにより、自身が身を隠すスペースを確保した。そして犯人はエレベーターの中でカネモトを殺害したのだ。しかし――そう考えると大きな問題。いいや、根本的な問題にぶち当たる。犯人が千早の言うようなトリックを用いたとして、どのタイミングでエレベーターに乗り込み、そしてエレベーターを降りたのか。そして――それが可能な人物など、果たして現場にいたのか。

「ここで犯人の動きを整理しておきます。動画の冒頭部分――最初にエレベーターを呼び出した時は、しっかりと合わせ鏡に観葉植物が映り込んでいます。つまり、奥側の鏡の位置も正常な位置にあったと考えられます。しかし、カネモトさんが博士さんに見送られてエレベーターに乗る際には、すでに観葉植物が合わせ鏡の中に映り込まない状態になっていました。つまり、この時点で犯人はすでにエレベーター内に乗り込んでいたことになります」

 班目は頭の中で動画を再生する。カネモトが乗るべく呼んだエレベーター。扉が開いた時、すでに奥側に見える鏡は偽物になっており、その偽物の鏡の向こう側に犯人が身を潜めていたことになる。こうして、エレベーターに犯人が乗り込んでいるなどと知らないカネモトは、博士に見送られてエレベーターに乗り、何も知らないまま最上階のマソンヌと言葉を交わし、そして1階へと戻るエレベーターの中で犯人に殺害された。理屈として筋は通っている。でも、最大の問題が残っている。それはラクレス全員にアリバイがあるということだ。
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