159 / 226
査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【解答編】
6
しおりを挟む
「いや、そもそもよ。エレベーターの壁1枚分と同じ大きさの鏡って――運び込むだけでも大変じゃね?」
愛からの疑問を千早が解決する前に、きっと我慢できなかったのであろう。一里之が口を開く。確かに、壁面と同じサイズの鏡をエレベーター内に持ち込むとなると、中々に難儀である。
「別に本物の鏡である必要はないんです。アクリル板のような軽量なものを持ち込んで、そこにミラーシートを貼ってもいいんです。そうすれば、持ち運び自体はそこまで難しくないと思います」
ミラーシートといえば、百円ショップでも売っているのを見たことがある。名前の通り、シート状になっている鏡だ。アクリル板もホームセンターなどで手に入るだろうし、それらでエレベーターの鏡と同じサイズの即席の鏡を作ることは可能だろう。
「ちなみに、愛さんの疑問に関しては、実際にエレベーターを調べたほうが早いと思います。まだ事件が発生してから時間が経っておらず、警察関係者の方々の出入りもあったはずですから、まだ手つかずになっている可能性が高いですし――」
自然と千早から視線を向けられていることに気づいた。何か用でもあるのか――と聞こうかとも思ったが、それより先に千早が口を開く。
「班目様、恐れ入りますが、外で待っている作業員の方から、工具箱を借りてきていただけないでしょうか?」
なんとなく答えは見えているのだが、まだそれが明確ではない班目。答え合わせとばかりに外に向かう。バンの中でスマートフォンを眺めて時間を潰していた様子の作業員に声をかけ、工具箱を拝借した。もちろん、その際に「もう少しだけ待っててください」と頭を下げることも忘れない。
工具箱を手に戻ると、今度はエレベーターの扉が閉まらないようにおさえる役を、千早の無言の視線で命じられる。意図を察した班目の行動に「ありがとうございます」と、工具箱を受け取る千早。思ったより重かったのか、取り落としそうになりながらも、なんとかエレベーターの床の上に工具箱を降ろした。合わせ鏡の中で、何人もの千早が同じような仕草をする。やはり、合わせ鏡というのは不気味だ。ちなみに、エレベーターの扉を閉まらないようにおさえる班目の位置からも、郵便ボックス脇の観賞植物が、しっかり合わせ鏡の中に映り込んでいるのが確認できた。
「事前に持ち込まれたエレベーターの奥側の鏡と同じサイズの鏡。利用者が全くいないというわけでもないのに、どうして誰も鏡の存在に気づかなかったのか。それは――こういうことだったのです」
千早は工具箱からカッターを取り出した。班目のほうを一瞥すると、小さく深呼吸をする。一体、なにをするかと見守っていたら、彼女はエレベーター奥側の鏡に刃を突き立て、一気に床のほうへと向かって走らせた。
愛からの疑問を千早が解決する前に、きっと我慢できなかったのであろう。一里之が口を開く。確かに、壁面と同じサイズの鏡をエレベーター内に持ち込むとなると、中々に難儀である。
「別に本物の鏡である必要はないんです。アクリル板のような軽量なものを持ち込んで、そこにミラーシートを貼ってもいいんです。そうすれば、持ち運び自体はそこまで難しくないと思います」
ミラーシートといえば、百円ショップでも売っているのを見たことがある。名前の通り、シート状になっている鏡だ。アクリル板もホームセンターなどで手に入るだろうし、それらでエレベーターの鏡と同じサイズの即席の鏡を作ることは可能だろう。
「ちなみに、愛さんの疑問に関しては、実際にエレベーターを調べたほうが早いと思います。まだ事件が発生してから時間が経っておらず、警察関係者の方々の出入りもあったはずですから、まだ手つかずになっている可能性が高いですし――」
自然と千早から視線を向けられていることに気づいた。何か用でもあるのか――と聞こうかとも思ったが、それより先に千早が口を開く。
「班目様、恐れ入りますが、外で待っている作業員の方から、工具箱を借りてきていただけないでしょうか?」
なんとなく答えは見えているのだが、まだそれが明確ではない班目。答え合わせとばかりに外に向かう。バンの中でスマートフォンを眺めて時間を潰していた様子の作業員に声をかけ、工具箱を拝借した。もちろん、その際に「もう少しだけ待っててください」と頭を下げることも忘れない。
工具箱を手に戻ると、今度はエレベーターの扉が閉まらないようにおさえる役を、千早の無言の視線で命じられる。意図を察した班目の行動に「ありがとうございます」と、工具箱を受け取る千早。思ったより重かったのか、取り落としそうになりながらも、なんとかエレベーターの床の上に工具箱を降ろした。合わせ鏡の中で、何人もの千早が同じような仕草をする。やはり、合わせ鏡というのは不気味だ。ちなみに、エレベーターの扉を閉まらないようにおさえる班目の位置からも、郵便ボックス脇の観賞植物が、しっかり合わせ鏡の中に映り込んでいるのが確認できた。
「事前に持ち込まれたエレベーターの奥側の鏡と同じサイズの鏡。利用者が全くいないというわけでもないのに、どうして誰も鏡の存在に気づかなかったのか。それは――こういうことだったのです」
千早は工具箱からカッターを取り出した。班目のほうを一瞥すると、小さく深呼吸をする。一体、なにをするかと見守っていたら、彼女はエレベーター奥側の鏡に刃を突き立て、一気に床のほうへと向かって走らせた。
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―
至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。
二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。
彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。
信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。
歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。
幻想、幻影、エンケージ。
魂魄、領域、人類の進化。
802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。
さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。
私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
引きこもり名探偵、倫子さんの10分推理シリーズ
針ノ木みのる
ミステリー
不労所得の末、引きこもり生活を実現した倫子さん。だが、元上司である警察官に恩がある為仕方なく捜査協力をする。持ち合わせの資料と情報だけで事件を読み解き、事件を解決へと導く、一事件10分で読み切れる短編推理小説。
失くした記憶
うた
ミステリー
ある事故がきっかけで記憶を失くしたトウゴ。記憶を取り戻そうと頑張ってはいるがかれこれ10年経った。
そんなある日1人の幼なじみと再会し、次第に記憶を取り戻していく。
思い出した記憶に隠された秘密を暴いていく。
戦憶の中の殺意
ブラックウォーター
ミステリー
かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した
そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。
倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。
二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。
その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。
隅の麗人 Case.1 怠惰な死体
久浄 要
ミステリー
東京は丸の内。
オフィスビルの地階にひっそりと佇む、暖色系の仄かな灯りが点る静かなショットバー『Huster』(ハスター)。
事件記者の東城達也と刑事の西園寺和也は、そこで車椅子を傍らに、いつも同じ席にいる美しくも怪しげな女に出会う。
東京駅の丸の内南口のコインロッカーに遺棄された黒いキャリーバッグ。そこに入っていたのは世にも奇妙な謎の死体。
死体に呼応するかのように東京、神奈川、埼玉、千葉の民家からは男女二人の異様なバラバラ死体が次々と発見されていく。
2014年1月。
とある新興宗教団体にまつわる、一都三県に跨がった恐るべき事件の顛末を描く『怠惰な死体』。
難解にしてマニアック。名状しがたい悪夢のような複雑怪奇な事件の謎に、個性豊かな三人の男女が挑む『隅の麗人』シリーズ第1段!
カバーイラスト 歩いちご
※『隅の麗人』をエピソード毎に分割した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる