猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【解答編】

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「いや、そもそもよ。エレベーターの壁1枚分と同じ大きさの鏡って――運び込むだけでも大変じゃね?」

 愛からの疑問を千早が解決する前に、きっと我慢できなかったのであろう。一里之が口を開く。確かに、壁面と同じサイズの鏡をエレベーター内に持ち込むとなると、中々に難儀である。

「別に本物の鏡である必要はないんです。アクリル板のような軽量なものを持ち込んで、そこにミラーシートを貼ってもいいんです。そうすれば、持ち運び自体はそこまで難しくないと思います」

 ミラーシートといえば、百円ショップでも売っているのを見たことがある。名前の通り、シート状になっている鏡だ。アクリル板もホームセンターなどで手に入るだろうし、それらでエレベーターの鏡と同じサイズの即席の鏡を作ることは可能だろう。

「ちなみに、愛さんの疑問に関しては、実際にエレベーターを調べたほうが早いと思います。まだ事件が発生してから時間が経っておらず、警察関係者の方々の出入りもあったはずですから、まだ手つかずになっている可能性が高いですし――」

 自然と千早から視線を向けられていることに気づいた。何か用でもあるのか――と聞こうかとも思ったが、それより先に千早が口を開く。

「班目様、恐れ入りますが、外で待っている作業員の方から、工具箱を借りてきていただけないでしょうか?」

 なんとなく答えは見えているのだが、まだそれが明確ではない班目。答え合わせとばかりに外に向かう。バンの中でスマートフォンを眺めて時間を潰していた様子の作業員に声をかけ、工具箱を拝借した。もちろん、その際に「もう少しだけ待っててください」と頭を下げることも忘れない。

 工具箱を手に戻ると、今度はエレベーターの扉が閉まらないようにおさえる役を、千早の無言の視線で命じられる。意図を察した班目の行動に「ありがとうございます」と、工具箱を受け取る千早。思ったより重かったのか、取り落としそうになりながらも、なんとかエレベーターの床の上に工具箱を降ろした。合わせ鏡の中で、何人もの千早が同じような仕草をする。やはり、合わせ鏡というのは不気味だ。ちなみに、エレベーターの扉を閉まらないようにおさえる班目の位置からも、郵便ボックス脇の観賞植物が、しっかり合わせ鏡の中に映り込んでいるのが確認できた。

「事前に持ち込まれたエレベーターの奥側の鏡と同じサイズの鏡。利用者が全くいないというわけでもないのに、どうして誰も鏡の存在に気づかなかったのか。それは――こういうことだったのです」

 千早は工具箱からカッターを取り出した。班目のほうを一瞥すると、小さく深呼吸をする。一体、なにをするかと見守っていたら、彼女はエレベーター奥側の鏡に刃を突き立て、一気に床のほうへと向かって走らせた。
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