猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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 今度は、実際にエレベーターに乗り込んでみた。本当に壁は合わせ鏡というやつになっていて、変な奥行きがあるというか、感覚がおかしくなりそうだ。

「あの、もうひとつだけ――。このエレベーターの定員って何人ですか?」

 エレベーターの作業員とて、その全てを把握しているわけではないのだろう。やや苦笑いを浮かべつつ「えーっと……」と、エレベーターの中を覗き込んでくる作業員。

「定員は書いてないですけど、最大積載量は400キロですね」

 作業員の視線の先に目をやると、中にある操作パネルの下のほうに、小さく最大積載量が記載されていた。

「そうなると妙なことに――」

 千早は小さく呟きながらエレベーターを降りる。もう一度だけ、博士がカメラを構えていたであろう立ち位置に戻り、エレベーターを眺めてみる。エレベーターを最初に呼んだ時は、確かに観葉植物がエレベーターの鏡の中に映り込んでいた。しかし、博士がカネモトを見送った時は……観葉植物がなぜか映り込んでいなかった。この差は果たしてなんなのか。それに、最大積載量の件についても、おかしなことが起きている。それすなわち――。

「あっ……」

 千早の頭の中で、ラクレスの動画が走馬灯のように流れる。冒頭の5人での挨拶、一見して全員に成立しているアリバイ、大海が目撃したという赤髪の人物――もしかすると、それらが全て解決してくれるかもしれない。しかし、まだだ。まだいくつか問題が残されている。

「どうかしましたか?」

 班目が口を開いた、その時のことである。班目の携帯が着信音を鳴らす。どうやら、このエレベーターホールであれば、電波は届くらしい。まぁ、声が響いてしまうから、大海はわざわざ外に出たのだろう。他の住人に気を遣ったというより、電話の相手に気を遣った感じだと思われる。

「はい……」

 班目はエレベーターホールから外に出ると、スマートフォンを取り出した。相槌を打つだけの電話がしばらく続き、通話を終えた班目がスマートフォンを胸の内ポケットにしまいながら口を開く。

「今、署から連絡がありました。まだラクレスの所在は明らかになっていないのですが、新しい動画がラクレスによって投稿されたようです。その内容によると、彼らの身柄を確保できるのも時間の問題らしいです」

 その言葉にスマートフォンを真っ先に取り出したのは一里之だった。置いてきぼりになってしまっている作業員のほうをに視線をやると「申しわけないですが、ちょっと車のほうで待機していただいてもいいですか?」と班目。まだエレベーターは調べるかもしれないし、かといって作業員を放置するのもかわいそうだ。班目の判断は願ってもなかったことのようで、作業員は「あ、了解です」と、結局使わなかった工具箱を手に車へと戻って行った。
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