猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

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「と、とにかく。大海君は午前0時から午前1時まで、おばけマンションの外にいた。そして正面玄関から人が出てくれば分かるような位置にいたのですよね? では、そこで何を目撃したのですか? 具体的に教えてください」

 大海をクラスメイトであると捉えるのであれば、こんなにスラスラと言葉が出てこないし、もう少したどたどしい会話になったと思う。しかしながら、大海に話を聞くことが、すでに査定の一環となっているため、古物商としてのスイッチが入っており、だからこそ面と向かって話を聞いても平気なのであろう。そこまで引っ込み思案ではないと思うのだが、人と意図的に関わろうとしてこなかった時期があるため、千早が自覚していないだけで、リハビリのようなものが必要なのかもしれない。ずっと古物商スイッチが入っていると楽なのだが。

「時間は覚えていないんだけど、電話をしている最中に、玄関から人が飛び出してきたのさ。辺りは真っ暗だったし、正面玄関から漏れる明かりのおかげで、ほんの一瞬だけ見えたんだけど、それ――赤髪の男に見えたんだよ」

 ラクレスのメンバーで赤髪といえば、殺害されたカネモトだけである。そのカネモトが正面玄関から飛び出してきたとは、どういうことなのか。

「その人物は、その後どちらへ?」

 千早の問いかけに、大海は少し首をひねりつつ答える。

「うーん、曖昧あいまいで申しわけないんだけど、山のほうに向かったような気がするんだよね。僕はおばけマンションから見て下手しもてのほう――市街地に抜ける方面の道路脇で電話をしていた。だから、僕の前を通り過ぎれば、いくら辺りが暗かったとしても分かったと思うんだ。でも、人が走り抜ける気配はなかったから、きっと市街地の方面じゃなくて、山の中のほうに向かったんだと思う」

 大海の証言が、事態を好転させてくれる起爆剤になってくれるのではないかと期待していたのだが、どうやら逆効果になってしまったらしい。カネモトは人喰いエレベーターに殺されてしまった。だから、正面玄関から飛び出し、山のほうに走り去ることなんて不可能なはずだ。では、大海が見たのは誰なのか。おばけマンションらしく、殺されたカネモトの亡霊だとでもいうのだろうか。

「ちなみに、山をのぼった先は田畑が広がっているだけです。一応、隣の市に繋がる下り道がありますが、車でもないと山越えは難しいかと」

 千早という人間を理解しつつあるのか、視線をくれただけで聞きたいことを口にしてくれる班目。なんだかんだで付き合いが長くなりつつあるから、阿吽あうんの呼吸らしきものが成立しつつあるのかもしれない。
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