134 / 226
査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】
28
しおりを挟む
「と、とにかく。大海君は午前0時から午前1時まで、おばけマンションの外にいた。そして正面玄関から人が出てくれば分かるような位置にいたのですよね? では、そこで何を目撃したのですか? 具体的に教えてください」
大海をクラスメイトであると捉えるのであれば、こんなにスラスラと言葉が出てこないし、もう少したどたどしい会話になったと思う。しかしながら、大海に話を聞くことが、すでに査定の一環となっているため、古物商としてのスイッチが入っており、だからこそ面と向かって話を聞いても平気なのであろう。そこまで引っ込み思案ではないと思うのだが、人と意図的に関わろうとしてこなかった時期があるため、千早が自覚していないだけで、リハビリのようなものが必要なのかもしれない。ずっと古物商スイッチが入っていると楽なのだが。
「時間は覚えていないんだけど、電話をしている最中に、玄関から人が飛び出してきたのさ。辺りは真っ暗だったし、正面玄関から漏れる明かりのおかげで、ほんの一瞬だけ見えたんだけど、それ――赤髪の男に見えたんだよ」
ラクレスのメンバーで赤髪といえば、殺害されたカネモトだけである。そのカネモトが正面玄関から飛び出してきたとは、どういうことなのか。
「その人物は、その後どちらへ?」
千早の問いかけに、大海は少し首をひねりつつ答える。
「うーん、曖昧で申しわけないんだけど、山のほうに向かったような気がするんだよね。僕はおばけマンションから見て下手のほう――市街地に抜ける方面の道路脇で電話をしていた。だから、僕の前を通り過ぎれば、いくら辺りが暗かったとしても分かったと思うんだ。でも、人が走り抜ける気配はなかったから、きっと市街地の方面じゃなくて、山の中のほうに向かったんだと思う」
大海の証言が、事態を好転させてくれる起爆剤になってくれるのではないかと期待していたのだが、どうやら逆効果になってしまったらしい。カネモトは人喰いエレベーターに殺されてしまった。だから、正面玄関から飛び出し、山のほうに走り去ることなんて不可能なはずだ。では、大海が見たのは誰なのか。おばけマンションらしく、殺されたカネモトの亡霊だとでもいうのだろうか。
「ちなみに、山をのぼった先は田畑が広がっているだけです。一応、隣の市に繋がる下り道がありますが、車でもないと山越えは難しいかと」
千早という人間を理解しつつあるのか、視線をくれただけで聞きたいことを口にしてくれる班目。なんだかんだで付き合いが長くなりつつあるから、阿吽の呼吸らしきものが成立しつつあるのかもしれない。
大海をクラスメイトであると捉えるのであれば、こんなにスラスラと言葉が出てこないし、もう少したどたどしい会話になったと思う。しかしながら、大海に話を聞くことが、すでに査定の一環となっているため、古物商としてのスイッチが入っており、だからこそ面と向かって話を聞いても平気なのであろう。そこまで引っ込み思案ではないと思うのだが、人と意図的に関わろうとしてこなかった時期があるため、千早が自覚していないだけで、リハビリのようなものが必要なのかもしれない。ずっと古物商スイッチが入っていると楽なのだが。
「時間は覚えていないんだけど、電話をしている最中に、玄関から人が飛び出してきたのさ。辺りは真っ暗だったし、正面玄関から漏れる明かりのおかげで、ほんの一瞬だけ見えたんだけど、それ――赤髪の男に見えたんだよ」
ラクレスのメンバーで赤髪といえば、殺害されたカネモトだけである。そのカネモトが正面玄関から飛び出してきたとは、どういうことなのか。
「その人物は、その後どちらへ?」
千早の問いかけに、大海は少し首をひねりつつ答える。
「うーん、曖昧で申しわけないんだけど、山のほうに向かったような気がするんだよね。僕はおばけマンションから見て下手のほう――市街地に抜ける方面の道路脇で電話をしていた。だから、僕の前を通り過ぎれば、いくら辺りが暗かったとしても分かったと思うんだ。でも、人が走り抜ける気配はなかったから、きっと市街地の方面じゃなくて、山の中のほうに向かったんだと思う」
大海の証言が、事態を好転させてくれる起爆剤になってくれるのではないかと期待していたのだが、どうやら逆効果になってしまったらしい。カネモトは人喰いエレベーターに殺されてしまった。だから、正面玄関から飛び出し、山のほうに走り去ることなんて不可能なはずだ。では、大海が見たのは誰なのか。おばけマンションらしく、殺されたカネモトの亡霊だとでもいうのだろうか。
「ちなみに、山をのぼった先は田畑が広がっているだけです。一応、隣の市に繋がる下り道がありますが、車でもないと山越えは難しいかと」
千早という人間を理解しつつあるのか、視線をくれただけで聞きたいことを口にしてくれる班目。なんだかんだで付き合いが長くなりつつあるから、阿吽の呼吸らしきものが成立しつつあるのかもしれない。
0
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい
犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。
突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー)
私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし…
断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して…
関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!?
「私には関係ありませんから!!!」
「私ではありません」
階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。
否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息…
そしてなんとなく気になる年上警備員…
(注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。
読みにくいのでご注意下さい。
コドク 〜ミドウとクロ〜
藤井ことなり
ミステリー
刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。
それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。
ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。
警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。
事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。
若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~
七瀬京
ミステリー
秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。
依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。
依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。
橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。
そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。
秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる