猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
129 / 226
査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

23

しおりを挟む
 一里之を先頭にして進む。一里之は、廊下のドン詰まりの前で立ち止まった。どうやら大海の部屋は最上階の一番奥らしい。非常階段のすぐそばであり、下手をするとエレベーターを使うより、非常階段を使ったほうが便利のように思えた。まぁ、のぼるのはきついだろうが。

 非常階段のほうも構造を確かめておきたい。そう考えた千早が扉のノブへと手を伸ばすが、しかし鍵がかかっているようだった。千早を見ていた班目が口を開く。

「ここの非常階段。もう随分とメンテナンスをしていないらしくて、危ないからという理由で使用禁止にしているそうです。完全に法に触れそうな話ですが、住人が極端に少ないうえに、それを含めて家賃が値引きされているらしくて――。管理会社の話だと、事件当時も鍵をかけていたそうです」

 非常階段は使えない。となると、使用できたのはエレベーターホールのそばにある階段だけだったということになるだろう。他にルートがあればもしや――と考えたのであるが、事件が起きたのはエレベーターホール付近に限定されるようだ。この非常階段が使えれば、他の可能性も見出せたのかもしれないが、残念なことに重要な材料を潰されてしまった気分だ。

「で、猫屋敷。そろそろ正義のやつを呼んでいいか?」

 大海の部屋の前で、インターフォンを押す直前の格好のまま待ってくれていた一里之。千早が頷くと、おもむろにインターフォンを押す。オートロックなどという小洒落たセキュリティーもないおばけマンションに、インターフォンの安っぽい音が響いた。それを待っていたかのごとく、中からバタバタと音がして、勢いよく部屋の扉が開いた。

「純平! よく来てくれたね!」

 一里之を出迎える大海の表情は満面の笑みであった。それを見た千早は、少しばかり尻込みしてしまう。一里之の時もそうであったが、クラスメイトの男子に学校以外の場所で会うというのは、なんとなく恥ずかしいというか、気まずさがある。

「あぁ、いきなりで悪いな。猫屋敷がどうしてもお前に話を聞きたいらしくて」

 もう、ちらちらと大海が横目でこちらを伺っているのは分かっていたが、一里之が千早の名前を出した途端、満面の笑みが一里之のほうから千早のほうへと向けられる。悪気はなかったのだが、思わず愛の後ろへと隠れてしまった。そこで我に返った千早は、愛の後ろから顔を出し、大海に向かって「ど、どうも――」と呟いた。自分の頬が紅潮していることが嫌でも分かる。

「やぁ、猫屋敷さん。いらっしゃい。それに、愛さんも。純平が迷惑かけてない?」

 一里之と仲が良さそうな大海。どうやら愛とも面識があるようだ。まぁ、友人の彼女であるから、面識くらいはあるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

コドク 〜ミドウとクロ〜

藤井ことなり
ミステリー
 刑事課黒田班に配属されて数ヶ月経ったある日、マキこと牧里子巡査は[ミドウ案件]という言葉を知る。  それはTMS探偵事務所のミドウこと、西御堂あずらが関係する事件のことだった。  ミドウはマキの上司であるクロこと黒田誠悟とは元同僚で上司と部下の関係。  警察を辞め探偵になったミドウは事件を掘り起こして、あとは警察に任せるという厄介な人物となっていた。  事件で関わってしまったマキは、その後お目付け役としてミドウと行動を共にする[ミドウ番]となってしまい、黒田班として刑事でありながらミドウのパートナーとして事件に関わっていく。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

処理中です...