猫屋敷古物商店の事件台帳

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
127 / 226
査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】

21

しおりを挟む
「とにかく、参りましょう。大海君も自宅で待ってくれているでしょうし」

 大海に話を聞きたいし、実際に現場をしっかりと見ておきたい。ここが、いわくの生まれた場所なのだから――。そんなことを考えつつ階段のほうに向かおうとすると、愛に腕を引っ張られた。

「どうぞ、男性陣はお先に」

 そう言って班目と一里之に先を譲る愛。何の気なしに階段をのぼろうとした千早は、どうしてわざわざ一里之達を先に行かせるのか、本気で理解できなかった。それを察したのか、愛が大きく溜め息を漏らす。

「あのね、私達はスカートなの。そんな私達が先に階段をのぼれば――下から絶景が拝めると。なんというか、千早ちゃんって、そういうところうといって言うか、ガードが甘いよね」

 初めて会った時に比べて、随分と愛との距離が近くなったような気がする。愛が積極的にフレンドリーな態度を取ってくれるからなのだろうが、言葉の使い方や、お互いの立ち位置などが、店主とお客という垣根を越えつつあった。何より不意に【千早ちゃん】と呼ばれたことに戸惑った。

「すいません。ここのいわくのことで頭がいっぱいで、そんなところまで頭が回りませんでした」

 正直に答えると、愛は仕方がないといった様子でもう一度溜め息。

「あのね、千早ちゃんは自分が思ってるより可愛いから。純平の話だとガードの固さで有名らしいけど、そういう隙はね――安易に見せないの。隙を見せるのは好きな人の前だけにしときなよ」

 ひとつ歳上の先輩からのアドバイスは、ありがたく受け入れるべきである。しかし生意気ながら、そこに生じた疑問を口にしてしまう。

「もし、その対象となる方がいない場合はどうすれば? 私――その、恋愛とかあんまり得意ではないというか、興味がないというか」

 班目と一里之はさっさと行ってしまい、愛と千早のやり取りだけがエレベーターホールに響く。

「えっ? いないの? 好きな人」

 こくりと頷くと「でも、男の人と手を繋いだりとかはしたいでしょ?」と、千早にとっては答えられるギリギリのキラーパスが飛んでくる。恥ずかしながら頷いた。

「そ、それはまぁ。しかし、具体的に誰と……という話になると、対象となる方がいなくて」

 頬が紅潮し、熱を持つのが自分でも分かった。正直なところ、この手の話はとても苦手である。クラスメイトの女子の話題は8割方がそんな話ばかりで、よくも朝から放課後まで盛り上がれるものだと感心すらする。そろそろ解放して欲しいと思っていたところで、ちょうど良く上の階から助け舟が出された。

「おーい、2人とも何してんだよ?」

 一里之の言葉に顔を見合わせると「ま、まぁ。その話はまた今度にして、とりあえず行こっか」との愛の言葉で、ようやく階段へと向かうことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作
ミステリー
 窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。  事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。  不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。  これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。  ※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴を落としたらシンデレラになれるらしい

犬野きらり
恋愛
ノーマン王立学園に通う貴族学生のクリスマスパーティー。 突然異様な雰囲気に包まれて、公開婚約破棄断罪騒動が勃発(男爵令嬢を囲むお約束のイケメンヒーロー) 私(ティアラ)は周りで見ている一般学生ですから関係ありません。しかし… 断罪後、靴擦れをおこして、運悪く履いていたハイヒールがスッポ抜けて、ある一人の頭に衝突して… 関係ないと思っていた高位貴族の婚約破棄騒動は、ティアラにもしっかり影響がありまして!? 「私には関係ありませんから!!!」 「私ではありません」 階段で靴を落とせば別物語が始まっていた。 否定したい侯爵令嬢ティアラと落とされた靴を拾ったことにより、新たな性癖が目覚めてしまった公爵令息… そしてなんとなく気になる年上警備員… (注意)視点がコロコロ変わります。時系列も少し戻る時があります。 読みにくいのでご注意下さい。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

処理中です...