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査定3 おばけマンションの人喰いエレベーター【問題編】
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「とにかく、参りましょう。大海君も自宅で待ってくれているでしょうし」
大海に話を聞きたいし、実際に現場をしっかりと見ておきたい。ここが、いわくの生まれた場所なのだから――。そんなことを考えつつ階段のほうに向かおうとすると、愛に腕を引っ張られた。
「どうぞ、男性陣はお先に」
そう言って班目と一里之に先を譲る愛。何の気なしに階段をのぼろうとした千早は、どうしてわざわざ一里之達を先に行かせるのか、本気で理解できなかった。それを察したのか、愛が大きく溜め息を漏らす。
「あのね、私達はスカートなの。そんな私達が先に階段をのぼれば――下から絶景が拝めると。なんというか、千早ちゃんって、そういうところ疎いって言うか、ガードが甘いよね」
初めて会った時に比べて、随分と愛との距離が近くなったような気がする。愛が積極的にフレンドリーな態度を取ってくれるからなのだろうが、言葉の使い方や、お互いの立ち位置などが、店主とお客という垣根を越えつつあった。何より不意に【千早ちゃん】と呼ばれたことに戸惑った。
「すいません。ここのいわくのことで頭がいっぱいで、そんなところまで頭が回りませんでした」
正直に答えると、愛は仕方がないといった様子でもう一度溜め息。
「あのね、千早ちゃんは自分が思ってるより可愛いから。純平の話だとガードの固さで有名らしいけど、そういう隙はね――安易に見せないの。隙を見せるのは好きな人の前だけにしときなよ」
ひとつ歳上の先輩からのアドバイスは、ありがたく受け入れるべきである。しかし生意気ながら、そこに生じた疑問を口にしてしまう。
「もし、その対象となる方がいない場合はどうすれば? 私――その、恋愛とかあんまり得意ではないというか、興味がないというか」
班目と一里之はさっさと行ってしまい、愛と千早のやり取りだけがエレベーターホールに響く。
「えっ? いないの? 好きな人」
こくりと頷くと「でも、男の人と手を繋いだりとかはしたいでしょ?」と、千早にとっては答えられるギリギリのキラーパスが飛んでくる。恥ずかしながら頷いた。
「そ、それはまぁ。しかし、具体的に誰と……という話になると、対象となる方がいなくて」
頬が紅潮し、熱を持つのが自分でも分かった。正直なところ、この手の話はとても苦手である。クラスメイトの女子の話題は8割方がそんな話ばかりで、よくも朝から放課後まで盛り上がれるものだと感心すらする。そろそろ解放して欲しいと思っていたところで、ちょうど良く上の階から助け舟が出された。
「おーい、2人とも何してんだよ?」
一里之の言葉に顔を見合わせると「ま、まぁ。その話はまた今度にして、とりあえず行こっか」との愛の言葉で、ようやく階段へと向かうことになった。
大海に話を聞きたいし、実際に現場をしっかりと見ておきたい。ここが、いわくの生まれた場所なのだから――。そんなことを考えつつ階段のほうに向かおうとすると、愛に腕を引っ張られた。
「どうぞ、男性陣はお先に」
そう言って班目と一里之に先を譲る愛。何の気なしに階段をのぼろうとした千早は、どうしてわざわざ一里之達を先に行かせるのか、本気で理解できなかった。それを察したのか、愛が大きく溜め息を漏らす。
「あのね、私達はスカートなの。そんな私達が先に階段をのぼれば――下から絶景が拝めると。なんというか、千早ちゃんって、そういうところ疎いって言うか、ガードが甘いよね」
初めて会った時に比べて、随分と愛との距離が近くなったような気がする。愛が積極的にフレンドリーな態度を取ってくれるからなのだろうが、言葉の使い方や、お互いの立ち位置などが、店主とお客という垣根を越えつつあった。何より不意に【千早ちゃん】と呼ばれたことに戸惑った。
「すいません。ここのいわくのことで頭がいっぱいで、そんなところまで頭が回りませんでした」
正直に答えると、愛は仕方がないといった様子でもう一度溜め息。
「あのね、千早ちゃんは自分が思ってるより可愛いから。純平の話だとガードの固さで有名らしいけど、そういう隙はね――安易に見せないの。隙を見せるのは好きな人の前だけにしときなよ」
ひとつ歳上の先輩からのアドバイスは、ありがたく受け入れるべきである。しかし生意気ながら、そこに生じた疑問を口にしてしまう。
「もし、その対象となる方がいない場合はどうすれば? 私――その、恋愛とかあんまり得意ではないというか、興味がないというか」
班目と一里之はさっさと行ってしまい、愛と千早のやり取りだけがエレベーターホールに響く。
「えっ? いないの? 好きな人」
こくりと頷くと「でも、男の人と手を繋いだりとかはしたいでしょ?」と、千早にとっては答えられるギリギリのキラーパスが飛んでくる。恥ずかしながら頷いた。
「そ、それはまぁ。しかし、具体的に誰と……という話になると、対象となる方がいなくて」
頬が紅潮し、熱を持つのが自分でも分かった。正直なところ、この手の話はとても苦手である。クラスメイトの女子の話題は8割方がそんな話ばかりで、よくも朝から放課後まで盛り上がれるものだと感心すらする。そろそろ解放して欲しいと思っていたところで、ちょうど良く上の階から助け舟が出された。
「おーい、2人とも何してんだよ?」
一里之の言葉に顔を見合わせると「ま、まぁ。その話はまた今度にして、とりあえず行こっか」との愛の言葉で、ようやく階段へと向かうことになった。
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